「その勉強に、何の意味があるんですか」と問う子どもたち

「勉強って、大人になっても何の役にも立たないよね」と断言する子どもがいます。「みんな言ってるけど」というのも口癖だったりします。はて、「みんな」とは誰のことでしょう?教師でしょうか?教育委員会?文科省?野党?教育評論家?塾?ヒットチャートを賑わせるミュージシャン?それとも、親?

子どもたちは、時代の空気や大人の価値観にとても敏感です。「勉強なんて役に立たない」と大人は断言しなくても、子どもたちはそれをどこかから察知し、子どもたちで共有しているのです。「みんな」とはつまり、子どもを取り巻く社会。特定の誰かではなく、私たちがいまこの時代に共有している「気分」が、子どもたちに「勉強なんて、役に立たない」と信じさせてしまう何かを発しているのです。

例えばいい学校を経て、いい会社に入った大人が、リストラや病気で挫折する姿。罪に問われて役職を追われる会社の責任者たち。少女たちを買う社会的に「偉い」はずの人たち。一攫千金が賛美され、積み上げる努力を軽視する風潮。成長期にある国とは違い、すでに高度成長を遂げてしまった日本に、「努力すれば成功する」というわかりやすい説得力を持つ図は、もはや存在しないかのように見えます。

「なんだ、毎日学校でこつこつやったって、割に合わないじゃん」
「やるだけ損じゃん」

大人の姿に失望して、こう考える子どもがいるのも、仕方がありません。そう感じるのは、皮肉なことに、むしろ生まれたときからの消費教育の成果なのだと、諏訪哲二氏は著書『オレ様化する子どもたち』の中で指摘しています。

なぜなら、子どもたちも大人も、みな一様に「モノ(目に見えるものも見えないものも)には、それに見合った対価がある」と信じている「等価交換社会」(内田樹氏の著述より)で生き、どんな努力もまた、数量化して報酬が支払われるようなシステムの中で生きているからです。子どもたちは、その教えを大人から、TVから、雑誌から、骨の髄まで叩き込まれているだけのことです。

子どもたちは、生まれたときから「消費主体」(『オレ様化する子どもたち』より)として育ち、だから子どもたちは買い手として学びに対して、「ぼく、それ要らない。だって、なんに役に立つのかわからない(し、むしろ役に立たないことを知っている)から」(内田樹氏の著述より)と宣言しているのです。

徹底的に金銭可視化される教育

その考え方で言うと、一般的にはすっかり市民権を得ている、「教育は子どもへの投資だ」という表現も、この時点で大人は既に子どもを「製品」として考えているのではないか、という反省があります。「中学受験をすると、将来的な年収にどれくらいの違いが出るのか?」「一浪すると、生涯年収でどれだけ差が出るのか?」と、大人が大真面目に調べようとする社会では、育てているのは人ではなくて工業製品なのではないでしょうか。確かに、このロジックで言えば、教育は工業製品への「投資」であり、成長した結果稼げる年収が「製品としてのパフォーマンス」なのです。

私たちが、子どもたちをそのように育ててきた。長らく「情」と「主観」と「イデオロギー」に支配されてきたと感じられていた教育問題に客観性を与えるべく、ビジネスロジックを当てはめて考えることが一般化し、それが知性であると信じてきた。新しい教育雑誌が次々と創刊され、より良い教育を与えるために、教育を「選び」、お金を払って教育サービスを受ける。環境(教育サービス)を金で買う、という感覚がビジネスマンたちやその家庭で支持される、今。

「先生、その勉強に何の意味があるの」と無邪気に問う子どもたちは、「オレが(アタシが)その『不快』な『苦役』に耐えるんだから、納得できるサービスを提供してくれるんでしょうね?」と値切り交渉をしている。「教室は不快と教育サービスの等価交換の場」になったのだと、内田氏は分析しています。

納得できなければ放棄する。それが教室の中だけで起こっていたのなら、親は「教師が悪い」と責めればよかった。でも、子どもが学校そのものから「降りる」ことを選択し、「だってさ、学校で勉強したって、大人になって何の意味があるの?」と尋ねたら?親は子どもの視線の先に、自分を含めた、世の大人たちの姿を見るのではないでしょうか。

誰の家庭にも起こりえる想定外の「ある質問」。親は、この問いにどう答えればいいのでしょう。この兆候は、すでに小学生の意識調査にも表れています。

>>><続編 「豊かさの果て 無気力に染まる子どもたち」(3月26日更新)>>>



関連コンテンツ

「言ってはいけない」子どもへのひと言とは?
ハンカチ王子の家庭に学ぶ 親子関係の秘訣
「この夏は、子どもときちんと対話しよう。夏休み・子どもと向き合う会話術」
「ネット引きこもり・親の対処法」


※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。