オールデンの一人勝ち?
オールデンを代表するモデルの一つである、外羽根式プレーントウ・990です。イギリス靴以上に変化し、その存在意義自体が問われているアメリカのドレスシューズ。その中にあってこの靴にはほとんど変化が見られません。「変われなかったからこそ生き延びた」典型的な逸品です。 |
イギリスから大西洋を越えてアメリカの紳士靴に目をやると、ワークブーツ系はまだまだ元気があるものの、ドレスシューズ系は誤解を承知で申せば、この10年でメーカーだけでなくその存在自体が危ぶまれる状態になってしまいました。かつてのアメリカ靴を代表していたフローシャイムやジョンストン&マーフィーは生産拠点を前者は完全に、後者はその多くを海外に移しています。アレンエドモンズも我が国では、販売元であるトレーディングポストさんが大変頑張ってくれていていかにも! なものがまだ入手できるけれど、アメリカ本国では随分お気楽な革靴も多く出しているのが現状です。
産業構造の変化もあって、あの国では「仕事」そのものがこの十数年で大きく変わってしまい、多くの男性にとっては従来のがっちりしたドレスシューズがもはや不要になりつつあるのが、その背景にあるようです。かつて憧れの的だった”Made in the USA”を、スタイルと共に維持しているドレスシューズのメーカーは、もはやオールデン位なのかな? 日本だと各セレクトショップの別注品ばかりに目が行きがちですが、それを含めてもここの基本的なラインナップは笑ってしまう位変化がないですよね。ロングノーズ系の靴なんて、結局全く出しませんでしたし、冒険してもせいぜいスクエアトウの「プラザラスト」まででしたから。
前のページのエドワードグリーンにも似たようなことが申せますが、オールデンはアメリカの靴メーカーとしては決して大きな規模ではないことが、逆に幸いしたのかもしれません。もともとやれることが限られている中で、どのように生き残りかつ存在意義を高めてゆくか? オールデンにとってのその答えは
「モディファイドラストに代表される、他に類を見ない極めて特徴ある木型を活用した、ショップ別注への対応」
しかあり得なかったのだと思います。自らのアイデンティティーを崩壊させることなく、取り込むべきは果敢に取り入れてゆく姿勢は、結果としてステータス性の向上と言う一種の「残存者利益」に繋がりました。
ローファーやデッキシューズなどのカジュアルシューズ主体ながら、この種の「これしかできない、これなら負けない」姿勢を更に進化させたのが、2007年頃から知名度を一気に高めた靴ブランド・ユケテンでしょう。アメリカ国内では絶滅寸前だったモカシン縫いに焦点を当て、その再生・再興に全力を尽くしたのは、嬉しいことに日本人のプロデューサーです。折からの「アメトラ第三世代」ブームにも見事に嵌り、世界的にも名が知れるブランドになりましたが、どうか一過性の騒ぎに終わらないで欲しいと願うばかりです。
以上、今回はアングロサクソン系の紳士靴のこの10年について、さらっと振り返ってみました。本当はまだまだ取り上げたい事象もまだまだあるのですが、だらだら書いているのも締まりがないので何卒ご了承ください。次回はイタリアやフランス、それに忘れちゃいけない我が日本の靴の西暦2000年からの動きを振り返ってみましょう! 終わりに全体総括もできれば……