男の靴・スニーカー/ドレスシューズ

クラークスのデザートブーツとは?歴史や人気な理由と履きこなし術

最高傑作との声も高いデザートブーツ。特にクラークスのデザートブーツは根強い人気を誇ります。メンズシューズの中でも、素材と製法が有機的に結合して生まれる柔らかな履き心地、それに汎用性の高さで、時代と世代を超えた人気は未だに不動のものです。

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

クラークスのデザートブーツとは史上最強の土日靴である!

クラークスデザートブーツの人気理由と履きこなし術

ガンガン履いているので履きジワも恥ずかしい位にくっきり出ている、クラークスのデザートブーツです。色は隠れファンの多いコーラスエード。サンドベージュ・黒・こげ茶の永久定番起毛系3色はもちろんですが、このコーラなど忘れた頃に再発売される「色モノスエード」も使い勝手がいいのです!


ビジネスで使うためのシューズは決められても、お休みの日にちょっとした自然や食の幸を求めて、遠出をしたくなる時に最適な靴って、実は案外見つけられないものです。気負ってドレスシューズを履いてしまうと、行動が妙に制約されてしまうし、逆にスニーカー姿だと足より上の装いとバランスが崩れるし……。

あれっ、そんな場だからこそ絶対頼りになる身近な存在、皆さん何か忘れていませんか?つま先が丸目で、底もアッパーも妙にフニャフニャ柔らかい、どうしても放って置けないニクイ奴……と言うことで、今回は20世紀のカジュアルシューズ史における最高傑作との声も高い、デザートブーツについて、深く迫ってみたいと思います。
 
<目次>
 

戦時中に見た軍靴をアレンジしたデザートブーツ!

デザートブーツ(Desert Boots)とは、広義に申せばチャッカブーツの一種とも言え、ライニングの付かないアッパーと生ゴムで出来た「クレープソール」が、ステッチダウン製法で接合されたものを特にこう呼びます。

アッパーには銀面が付かないスエードが主に用いられ、成形性と強度を維持するため、樹脂等で裏打ちされている場合も多いです。他社からも似たようなものが沢山出ているのですが、やはり、オリジネーターで英語の「Desert」の商標権も持つイギリス・クラークス(Clarks)社のものがあまりにも有名!なので、今回の記事もこのクラークスの靴に限定して考察してゆくことにします。
 
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大定番・サンドベージュスエードのデザートブーツのアッパーです。デザートブーツのそれに用いるスエードは、むしろ「ベロア」と呼ぶのが相応しい、毛足が長めで銀面の付かないものがほとんど。幾分頼りなげな柔らかさが、またたまらない!

メンズの服飾品の多くがそうであるように、このデザートブーツも起源は事実上、戦場でした。第二次大戦中、ビルマ戦線に赴いたクラークスの四代目ネーサン・クラーク(Nathan CLARK)氏が見た同僚のスエードブーツが、今日まで連なる伝説の始まりです。

クレープソール仕様のそれは、エジプト・カイロのバザールで作られた一見特筆すべき点などない軍靴でしたが、流石は靴メーカーの御曹司!彼はその靴の斬新さを完全に記憶に留め、終戦後の1950年、これをアレンジし「エジプト→サハラ砂漠」と連想。直球勝負のイメージとアッパーに用いたスエードの質感から、「デザートブーツ」とネーミングし世に送り出した訳です。
 

クラークスのデザートブーツの起こり

羊毛(ムートン)の鞣し工場が起源で、南西部・ストリートの街で1825年に創業したクラークス。イギリスの既製靴ブランドとしては、例外的にノーザンプトン周辺の出身ではないため、その分既存の枠にとらわれない、自由な発想で製品化してしまったのかも知れません。

とは言えあまりの斬新さゆえ、当時のイギリスでは一般ユーザーには理解の範囲外だったようで、デザートブーツは発売初期には全くの鳴かず飛ばず状態。屈曲性に優れたステッチダウン製法は当時、主に子供靴の底付けに用いられていたもの。

それに輪をかけてクレープソールとライニング無しのスエードアッパーですから、当時の紳士靴としては「柔らかさ」が尋常ではなく、コロッと丸いトウシェイプの印象から見ても、確かに大人の履く靴としては頼りなく思われたのでしょう。

この靴の潜在能力を最初に認めたのは、装いのカジュアル化がイギリスよりも数歩早く「侵攻」していたアメリカ市場でした。一縷の望みを託して展示会に出品したところ、「愛嬌のある見た目以上に、様々な場面で使える!」と主に東海岸でたちまちブーム。「名声がアメリカから逆輸入される」当時のヨーロッパ製品の必勝パターンとなったのです。

その後、1960年代から80年代にかけては、欧米のみならず我が国でも気楽なレザーブーツの代名詞として、他の著名な靴メーカー・ブランドからも数々のコピー商品が作られるほどの人気を勝ち取りました。スニーカーが多様化し履ける場も世界的に圧倒的に増えた1990年代以降は、流石にかつてほどの影響力はなくなりました。それでも足元のお洒落に気を付けている男性ならば1足は必ず持っているブーツであることは、未だに間違いありません。
 

デザートブーツは「気楽に履く」ことが意義

屈曲性には優れているけれど、コバの縁でアッパーを直接底付けするため、清楚さにはやや欠けるステッチダウン製法。クッション性は抜群だけど、タイル張りやアスファルトの道とは相性が良いと言い切れないクレープソール(雨天には案外滑りやすく夏場には粘つきやすい)。柔らかいのは認めるけれど、お世辞にも最高級とは呼べない銀面無しスエード……。

正直申し上げて、他の靴に比べると全体のデザインも作りも決して凝っていない、素朴でやや洗練さに欠く印象を持ってしまう。でも、このデザートブーツは「気楽に履く」ことが第一義の靴。だからこそ「凝ってなさ」が、自由な裁量を履き手の側に与えてくれているとも申せます。

要は、革質がどうだとかフィット感がどうのこうのなど、些細なことにケチをつける靴ではなく、もっと大らかにのんびり構えて履くのが相応しいのです。それに気付くと柔らか過ぎて一見頼りなげなデザートブーツが、いい加減なドレスシューズやスニーカーなどより遥かに多目的に使える、逆に大いに頼もしい存在に思えてくるからあら不思議!

デニム・チノーズ・ポロシャツ・ニットセーターと言ったカジュアルウェアは勿論のこと、ジャケット&トラウザーズの休日お出かけスタイルも難なくこなせます。アスファルトはともかく、クレープソールは土や砂の道とは相性が良いですし、ダークトーンであればスエードのアッパーは雨ジミも汚れも目立ちづらい。
 
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履き心地の柔らかさだけでなく、汎用性の高さもデザートブーツの特徴。カジュアルウェアにならほぼ何にでも合わせられますし、ジャケット&ネクタイ姿にだって違和感なく対応できます。

例えば、「それほど過酷な自然環境にはない観光地に1~2泊小旅行して、その地の銘店で舌鼓」なんて時は、正に他に選択の余地がない、根強いファンが多いのも頷けます。イタリアやフランスにはこれをダークスーツに合わせる兵もいるようですが、流石にこれは超・上級編かな?いや、いわゆる「クールビズ」的な装いの中であれば、一般の人でも取り入れることは比較的簡単かも?
 

デザートブーツをまずはスニーカー代わりに!

いずれにせよ、今までスニーカーで適当に済ませていた場面にデザートブーツを履いてくるだけで、軽快な感覚を損なわず装いに落ち着きを加えることが可能。お洒落に頓着の無い男性のカジュアルスタイルを改造する「はじめの一歩」としても最適なのです。

履き方のコツが一旦掴めてしまうと、サンドベージュ・黒・こげ茶の起毛系永久定番の3色はもちろん、ネイビーやローデングリーンなど数年間隔でしか発売されない色も無性に欲しくなる、誠に罪作りなブーツですよ。構造が簡単な靴のためか、21世紀に入るや否や、この靴は本家のクラークスのみならず、ほとんどのメーカーがベトナムなどの東南アジア生産にチェンジ。このことを惜しむ往年のファンが多いのも事実で、その気持ち、すっごく解ります。

でも、革靴の中では価格が非常にこなれている部類ですし、原則気楽になりたい時に履く靴ですから、必要以上に原産地にこだわり過ぎてしまうのは、ちょっと野暮なのかも?とにかくまだお持ちでいらっしゃらない読者の方は、騙されたと思ってこげ茶スエード辺りを一足買ってみて下さい。数年後間違いなく、「あれっ?こんなに高頻度に履いていたんだっけ?」と驚くことになりますから!

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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