シンプルであるが故の迫力
ヴァンプモカシンの代表選手、アメリカ・フローシャイム社の通称「コブラヴァンプ」です。2007年秋に日本向け限定で復活しましたが、これは一時廃盤となってしまう直前の、アッパーにコードヴァンを用いた1990年代後半のものです。 |
前回は2008年春夏に久々に脚光を浴びているタッセルスリッポンをとり上げました。ここ暫く表舞台から遠ざかっていた靴だけに、その汎用性を改めて思い出された方もいらっしゃれば、初めて実感できた方もいらっしゃると思います。
今回は、甲の部分に飾りが何も付かないヴァンプモカシン、特に「コブラヴァンプ」と呼ばれている靴に焦点をあててみます。ご覧の通り極めてシンプルな概観ですが、その分甲周りのモカシン縫いの存在感が際立ち、不思議な迫力を覚える靴です。普通のローファーとは似ているようで結構異なる、この靴のあれこれを早速追ってみましょう!
上下にうねるモカシン縫い
甲周りを拡大して撮ってみました。モカシン縫いの蛇の頭のようなこの「うねり」こそ、コブラヴァンプ最大の特徴です。 |
甲の部分の飾りがモカシン縫い以外に何も付かないスリッポンを、日本では上述のように「ヴァンプモカシン」と言います。甲周りがちょうど舌のような形状になるからですが、海外ではあまりこの名称は使われず、むしろヴェネシャン(Venetian)と呼ばれることが多いようです。その語源は諸説あるようですが、何となく形状がヴェネチア名物・ゴンドラに似ているような似ていないような……
それはともかく、ヴァンプモカシンの中でも代表格と言えるのが、つま先から甲にかけての造形がまるで蛇の頭のような「コブラヴァンプ」と呼ばれるもの。特にアメリカ・フローシャイム(Florsheim)のものがあまりに、あまりに有名です。ローファーやUチップなどにも用いられ、甲に蓋をする役割を果たすモカシン縫いは、通常は上下方向にはそれほど段差を設けません。が、コブラヴァンプはそれが甲からつま先へと、文字通り大蛇がうねるがごとく曲線的に落ち込みます。その先端は、ソールの端よりも前に出ようとするほど!
フローシャイム自身はアメリカでも北中部と呼ぶべきシカゴを起源とする靴ブランドですが、このコブラヴァンプは1950年代後半~1960年代中盤にかけてアメリカ北東部の大学生、いわゆるアイビーリーガー達に愛されたことで急速に認知度が高まってゆきました。もちろん当時の日本でも、流行の最先端だったIVYスタイルの愛好者に受け入れられた訳ですが、その頃に原体験がある方にお伺いすると、この靴の支持者にはちょっとだけ「ぶっきらぼう」な雰囲気も漂っていて、ローファーを好む層とは微妙に異なっていたそうです。シンプルながら勇壮と呼ぶに相応しいその風貌は、確かにちょっとだけクセ者に見えますよね。
次のページでは、意外と気付かない、コブラヴァンプのさらなる特徴についてご教授申し上げましょう!