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静かに本質を見据える、銀座ヨシノヤの靴(3ページ目)

2007年で創業100周年を迎えた銀座ヨシノヤ。婦人靴の印象が強いですが、手の込んだ紳士靴も見逃せません。日本人の装いから今日すっかり失せてしまった「知」と「理」をしっかり残してくれている、稀有な存在です。

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

部分と全体が互いに呼応し合う、破綻のない品質!

0521
銀座ヨシノヤの内羽根式パンチドキャップトウ、モデル0532です。独特のブローギング(穴飾り)の配置も全く厭味に映らないのが、さすが老舗の迫力。時を経ても新鮮な魅力が失われない、秀逸なデザインです。色:黒・ブラウン(いずれもキップ・スムースレザー)。サイズ:24.0~26.5 EE。価格:\94,500(税込み) 銀座ヨシノヤ


銀座ヨシノヤの「九分仕立て紳士靴」は、何もその「製法」のみがセールスポイントではありません。靴全体のデザインも、落ち着いた表情の中にメリハリの利いた、緻密でかつ大変洗練されたものばかり。製作しているアトリエで、底付けに卓越した技術を持つ「ボトムメーカー」だけでなく、靴の造形と時代の流れに熟知した鋭敏な感覚の「ラストメーカー」「パターンメーカー」と、それをアッパーとして丁寧に縫製する「クローザー」とが一致団結して仕事にあたっている、何よりもの証拠でしょう。

ちょっと見逃しがちな部分に惜しげもなく手間暇をかけているのも、日本の職人の本領が発揮されている点。例えば細革の上に施されている細かい刻み模様、専門用語ではこれを「目付け」と呼びますが、通常は車状になっている焼きゴテでぐるっと一発で付けるもので、この辺りの仕上げ作業は既製靴であれ誂え靴であれ、ほぼ同じです。しかし銀座ヨシノヤの「九分仕立て紳士靴」では、この「目付け」を一つ一つ時間をかけてしっかり施してゆきます! 考えただけでも気が遠くなりそうな作業ですが、そのおかげでコバの見え方がより彫深くなり、靴全体から醸し出される凛々しさをいっそう引き立たせているのが、上の写真の靴をご覧いただければお解りいただけるはずです。

ただし造形の面では、時代を意識しながらも決してそれに迎合はしていない点にも、注目しなくてはなりません。例えば木型の面では、甲高幅広から甲薄幅狭への日本人男性の急激な足の変化に対応し、表記上こそEEですが着用感はそれこそイギリス靴のDに相当する、従来よりも明らかにスリムなものを登場させています。しかしここ10年来紳士靴市場を席捲してきた、いわゆる「ロングノーズ」の靴については、この店では展開していません。日本人特有の「摺り足」的な足使いでは、この種の靴はかえって歩行の障害になると、銀座ヨシノヤでは考えるからです。

踵周りの処理にも、日本人男性の足形・歩きグセを知り尽くしているが故のポリシーが貫かれています。踵をくるむアッパーの造形は、見事なまでに小さい! その一方、ヒールそのものは昨今の「小さければエレガント(ってよく言うけれど、何度も書きますが『エレガント』って一体何なのかな? 意味も解らず適当に用いている『思慮深く』ない人が、多すぎます)」的な潮流とは一線を画し、靴のデザインと歩きやすさ双方を熟慮した、ある程度の大きさの着地面を保ったものになっています。さらには下の写真で一目瞭然ですが、その接地面を敢えてオールラバー仕様とし内踝側を丁寧に面取りするなど、靴本体のみならず日本での靴の使用環境までも徹底的に考え抜いて、製作にあたっているのです。

ヒール周り
ヒール周りを内踝側からアップで撮ってみました。面取りが大変丁寧で、これならトラウザーズの裾を引っ掛ける心配も無用です。接地面も摺り足ぎみの日本人の歩きグセと道路環境を考慮し、敢えてオールラバーとしています。




最後のページでは、老舗の底力を感じずにはいられない、銀座ヨシノヤの「対応力」に迫ります!
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