男の靴・スニーカー/靴のショップ情報

静かに本質を見据える、銀座ヨシノヤの靴(2ページ目)

2007年で創業100周年を迎えた銀座ヨシノヤ。婦人靴の印象が強いですが、手の込んだ紳士靴も見逃せません。日本人の装いから今日すっかり失せてしまった「知」と「理」をしっかり残してくれている、稀有な存在です。

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

手が込んでいる、だけではありません!

掬い縫い
銀座ヨシノヤの「九分仕立て紳士靴」のアウトソールを縫う前の底面です。インソールとアッパーそれにライニングは、このように外周に「細革」を介在させて、機械ではなく手で縫い上げられます。


銀座ヨシノヤの紳士靴は、全工程のうち約九割を手縫いで仕上げた「九分仕立て」と呼ばれる製法を、以前から頑なに守り通してくれている、日本でも極めて貴重な存在です。今でこそ靴好きの間には知れ渡っているこの日本語、通常のグッドイヤー・ウェルテッド製法とは具体的に何が異なるのでしょうか? まずちょっと復習してみましょう。

堅牢性を重視した靴に多く採用されるウェルテッド製法は、
  1. アッパー・ライニング・インソール・細革(ウェルト)を接合する「掬い縫い」
  2. 細革・アウトソールを接合する「出し縫い」
と、底付けの縫いが2回入るのが大きな特徴です。グッドイヤー・ウェルテッド製法も確かに手は大変込んでいますが、1.2.どちらも専用のミシンで縫われ、その意味では厳密に申せばマシンメイドの範疇の靴です。またこの製法では、インソール下部に1.の糸を通すため、「リブ」と呼ばれるテープ状の布がその周囲に取り付けられます。

しかし銀座ヨシノヤの紳士靴に用いられる「九分仕立て」では、2.こそミシンで行うものの、1.つまり「掬い縫い」は手で縫われるのが、通常のグッドイヤー・ウェルテッド製法との決定的な違いです。またこの製法ではリブは取り付けない代わりに、「掬い縫い」では上の写真でもお解りの通り、インソール下部の周囲を凸状に掘り起こした部分を直接縫う点も、それとは異なります。ちなみに英語で言うところの「ハンドソーン・ウェルテッド製法」とは、この「九分仕立て」ならびに上記2.の「出し縫い」も手で行う靴に限って用いられる言葉です。

グッドイヤー・ウェルテッド製法との違いは、なにも作る際のプロセスだけではありません。ズバリ「九分仕立て」にすると、堅牢さを損なうこと無く、履き心地が格段に向上するのです! 手で「掬い縫い」を行うことで縫いの微妙な匙加減が可能になり、靴の造形がより木型や足に忠実で、立体的なものになるからです。またリブが不要な分、厚くて柔軟なインソールが使えるため、通常のグッドイヤー・ウェルテッド製法よりも軽く、足への密着感に優れた靴に仕上がる点も見逃せません。

0545
銀座ヨシノヤのダブルモンクストラップ、モデル0545です。言われなければ3Eとは気付かない端正なルックスは、木型のプロポーションの良さだけでなく、緻密なデザインパターンが描けるからこそ生み出されるものです。色:黒・バーガンディ(いずれもキップ・スムースレザー)。サイズ:24.0~26.5 EEE。価格:\102,900(税込み) 銀座ヨシノヤ




次のページでは、銀座ヨシノヤの紳士靴の、製法だけではない「足場の固まった」魅力について!
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます