ブローグとは?セミブローグ・フルブローぐなど
各パーツの位置や特徴がわかるように、敢えて2色使いのコンビのセミブローグを載せました。 |
今回はセミブローグ、と呼ばれる種類の靴の解説を致します。でも手始めに「ブローグ」って何だ? と言うことで、おさらいも兼ねて、靴のアッパーの主要部品の用語を整理しておきましょう。上の写真の靴をご覧下さい。番号が振られている部分の名称は、以下の通りです。
- トウキャップ:つま先を保護する芯が入ります。
- ヴァンプ:アッパーでは歩行時に一番曲がる箇所です。
- レースステイ:文字通り、紐を縛るエリアです。
- クウォーター:足の側面を支えます。
- ヒールカウンター:踵を支える芯が入ります。
さてこの「ブローグ」、上の写真の1と2の間の穴飾りの配置によって呼び名が多少異なってまいります。今回採り上げるセミブローグは、ブローギングが一文字状のものです。また、これがW字状のものはフルブローグと呼びますが、いずれの場合も、通常は上の靴のようにつま先の中央に「メダリオン」と呼ばれる花状の穴飾りが付きます。
なおセミブローグでもメダリオンが付かないものを、特に「クウォーターブローグ」と呼ぶ場合もあります。「フル」「セミ」「クウォーター」の順に容姿がシンプルになってゆくわけですが、クウォーターブローグは「キャップトゥとは? ビジネスシューズとしても使えるメンズの革靴」でご紹介したパンチドキャップトウとの差が見た目にも極僅かなので、前者を後者として販売しているメーカー・ブランドも、多々あります。
セミブローグの活かし活動的かつ生真面目な内羽根式
内羽根式のセミブローグのお手本と断言できる、ロイドフットウェアのバークレイ。黒も茶系も、合わせるスーツやジャケットをあまり選ばない、これぞ千両役者です。 |
こちらはセミブローグの内羽根式です。パンチドキャップトウと比べていただくと、各縫い目のブローギングとつま先のメダリオンのおかげで、表情に活動的な要素が随分加わるのが、ご理解いただけるかと思います。
ただ、活動的とは言っても生真面目さを失わないのが、このスタイルの優れた点です。流石にフォーマルユースには履けませんが、特に黒のものは、対外プレゼンテーションのような、ビジネスシーンで他人との違いを何気なく強調したい「華が求められる」場には、うってつけの靴でしょう。
イギリスではビジネスシューズとして昔から大変人気のあるこのスタイルが、「セミブローグ」の名で日本でお馴染みになりだしたのは、実は1990年代からと比較的最近です。おそらく前述の「フル」「セミ」「クウォーター」の解釈の違いによるものだと思われますが、それまで「セミブローグ」なる言葉は、我が国の靴業界では次回ご紹介する「内羽根式のフルブローグ」を指していたほど認知度が低く、今日でもこの靴はしばし「メダリオンストレートチップ」などと呼ばれています。
重厚さも加わる外羽根式
外羽根式のセミブローグとして、前モデルのサンフォードと同様バランスの良いスタイルが際立っていた、アレンエドモンズのレキシントン。惜しくも現在は生産終了です。 |
一方こちらはセミブローグの外羽根式です。外羽根式と内羽根式の違いの定石通り、重厚かつ活発な印象が更に加わります。この辺りになってくると、靴全体の表情に安定感を出すためにも、ソールは気持ち厚めのものの方が似合うような気も、何となくします。
このスタイルは、どちらかと言えばイギリス以外の国、例えばアメリカやフランスのメーカーやブランドに、名作が多いのも不思議な特徴です。もっとも最近は、「多い」ではなくて「多かった」なのですが……。
近年このような「落ち着いた靴」が減少傾向にあるのは、恐らく男性の装いにおいても、腰の据わったものよりもカジュアルかつ瞬間芸的なものが世界的に好まれるようになり、これを「格好いい」と勘違いされる方が、明らかに増加しているからでしょう。服と同様靴もデザインや色ばかりが無用にでしゃばり過ぎると、それを履く「人」自身が却って同質的なつまらなさを露呈してしまう矛盾、すなはち「カッコ付けてる」だけで軸の無さを曝け出してしまうことに、創り手・売り手そして履く側も、いい加減気付いて欲しいものですが。
セミブローグは守備範囲の広さで定評大!
セミブローグは、まず第一線のビジネスの場でその真価を発揮します。ただジャケットスタイルとも相性が良いので、黒と茶系、どちらもあると大変重宝します。 |
内羽根式であれ外羽根式であれ、セミブローグは結構守備範囲の広い靴です。前述の通り例えば黒のスムースレザーのものなら、フォーマルは無理ですがやや畏まったビジネスまでなら堂々と使えます。もともとこのブローグなる靴は、16世紀から17世紀にかけてのアイルランドでの労働靴起源。ですから、ビジネス用にバリバリ使うのはDNA的にも大正解です。
また茶系ですと、スーツのみならず同じく茶系の無地のカシミアジャケットや、穏やかな柄のツイードジャケットなども合わせる視野に入ってきます。いずれにしても「快活さと律儀さ」が両立する装いをすれば、まず失敗はありません。
例えばスーツですと、上の写真のようにストライプ地のダークスーツとの相性は、もう最高です。いかにも難題をテキパキ片付け、交渉事を円滑に纏めるエリートビジネスマンの気分でしょう。
そう言えば、イギリスのメーカー・チャーチには内羽根式のこの靴に昔から大定番があるのですが、その名は国家間の大事な交渉をこなす「ディプロマット」。正に名は体を現すスタイルです。そう、セミブローグを履きこなすには、快活さと律儀さのみならず、彼らのように真実を見極める余裕と、自らの装いにも社会的責任を持つ覚悟も、必要なのです。
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