<目次>
ウイング・チップの魅力は無骨なところ
イギリスではフル・ブローグズと呼んでいるが、アメリカ式のウイング・チップという呼称のほうが馴染み深いので、あえてそう呼ばせてもらう。で、ウイング・チップの起源はというと、意外と古く17世紀のアイルランド(スコットランド説もあり)まで遡ることができる。 とはいえ、現在のようにお洒落感覚で履くようになったのはずっと後のことで、19世紀後半になってからのこと。おもに狩猟や田園の散策用に履かれていたようだ。たぶん、アメリカでいうところのワークブーツのような存在だったのだろう。現在のトリッカーズのカントリーを見ていると、たしかに「ワークブーツだな~」と納得してしまう。イギリス版のビーンブーツ(エルエルビーンのメイン・ハンティング・ブーツのこと)のようだと思うのはボクだけではないだろう。そんな歴史的な背景を知ってしまうと、洗練され過ぎたデザインをこの靴に求めるのは間違いだと気づく。
クツハクに出品されたエドワード グリーン。一度は履いてみたい憧れのブランドである。
英国靴といえばやっぱりチャーチ!
オススメは英国靴の良心、チャーチ(CHURCH’S)である。ご存知のような買収劇があって、しばらく日本市場から消えていたが、ここ数年再び日本でも購入できるようになった。 写真のチャーチはすべてオールドチャーチ(旧チャーチ)と呼ばれる古いモデルである。残念ながら新生チャーチは価格が上がってしまった。それにもまして木型が変更されてしまったことに、昔ながらのチャーチファンは怒っているのである。これほど日本にチャーチファンが多いのは、長年にわたって大塚製靴がチャーチを入れていたからだ。価格も嬉しいことにずっと4万円~5万円代で購入することができ、価格とクオリティにおいて、英国靴の基準としての役目を果たしていた。 ジョン・ロブやエドワード・グリーンも知らなかった世代にとって、チャーチは英国靴のシンボルであり、「いつかはチャーチ」を目標に、リーガルで我慢していたのである。価格が高騰してしまったとはいえ、伊勢丹新宿店では、昔の木型を使ったモデルを限定復刻しているし、まだまだ魅力的なブランドだと思う。オールドチャーチは中古だから嫌だという人には新生チャーチを履いてもらいたい。
チャーチのウイング・チップ
さて、もっとも有名なチャーチのウイング・チップといえば、ラスト73を使ったチェットウインド(CHETWYND)だ。チャーチのなかでもっとも人気が高く、傑作といわれているモデルである。ちょっと気になるのは真上から見たときのコバの張り具合だ。とくに小指側の出っ張りがどうも……。まるでエイのように見えてしまう(笑)。もう少しこのエラがなければ、もっと好きになったはずだ。 横から見るとご覧通り英国靴らしい威厳が漂っている。やっぱり傑作と呼ばれるモデルはキラリと光るものがある。 個人的にはラスト81を使ったバーウッド(BURWOOD)が気に入っている。洗練されたところがまったくなく、革底もダブルソールという無骨なデザインである。写真で見るよりトウは丸みを帯びていて、シャープ感はゼロ。これほど洗練されない名作は他にないと思う。 スーツというよりジーンズとツイード・ジャケットなどカジュアルな着こなしが似合うモデルだ。これを見ていると、どこかブルドッグやバグのような親しみを覚えてしまう。ほんと、一度履くとやめられない可愛いヤツですね。 もう一つ愛着があるのが、ラスト84のヒックスティード(HICKSTEAD)だ。定番のブックバインダー(カーフ)を使ったモデルで、野暮過ぎず、上品過ぎない中庸的なところが気に入っている。チェットウインドより革底の横幅が5ミリほど細く、トウシェイプもまるで卵のようなエッグ・トウだ。 チェットウインドの真上からの写真と比較すると、ヒックスティードのタイトさがよくわかるだろう。その分、迫力に欠けてしまい、おとなしい感じもするが、デザインではこちらが好きだ。 チャーチのなかでもあまり知られていないモデルだと思うが、スーツ、ジャケットを問わずコーディネートしやすいモデルである。やや細めというのが好きな理由かもしれない。チャーチ ヒックスティードの箱に記載されたモデル名などの情報。ここを見ればすべてがわかる。万が一捨ててしまったとしても、靴のライニングにも記されている。擦れて消えてしまうと何もわからなくなってしまう。
化粧しないオールドチャーチの魅力
「チャーチらしいな」と思うのは、革底をドブ伏せ(チャネル仕上げ)していないところだ。トリッカーズのカントリーのようなモデルは別だが、いまどき5万円以上する靴ならドブ伏せしていて当たり前だろう。 くわえてライニングが布製だということ。機能的に問題がなければ、化粧したりしないのがチャーチ流なのである。まさに実直そのものだ。このアングロサクソン的なストイックさに惚れ込んでしまうと、もうオールドチャーチを手放せなくなってしまう!至高のリーガル ブリティッシュ・コレクション
リーガルが以前イギリスの靴メーカーに作らせていたのがブリティッシュ・コレクションである。20年ほど前に購入したこのウイング・チップは珍しいバーガンディー色で、リーガルブランドにしては高額な3万円代だった。 まあ、この価格で英国靴が買えたというのはかなりお買い得だった気もする。一度オールソール交換を済ませ、現在は殿堂入りを果たした。リーガルで最初に購入したウイング・チップは、内羽根式の濃茶ベロアのクレープソールモデルで、10代の頃に毎日のように履いていた。それにラルフ・ローレンのアーガイルソックスを合わせて、VANの尾錠付きウールパンツと、J・プレスのボタンダウン、VANのブラックウオッチ柄のブレザーがお決まりのコーディネートだった。 これはウイング・チップ全般にいえることだが、手入れが面倒だということだ。一度でも靴磨きをした人ならわかるだろうが、穴飾りにシュークリームが入り込むし、ストッキングで艶出ししようものなら、かならずピンキング(革のギザギザ縁)に引っかかってしまう。
そこで用意したのが穴掃除用の歯ブラシと爪楊枝、綿棒だ。そしてストッキングにかわって艶出し用の大型靴ブラシである。ウイング・チップが一人前に磨ければ、プレーン・トウやホールカットの手入れなんて朝飯前である。そこまでしても履きたいのはやっぱり好きだからだろう。
レディースのウイング・チップといえばトリッカーズ!
ウイング・チップは男性だけのものかというと、そんなことはない。レディースのウイング・チップだって売っているのだ。とくにカッコいいのは英国トリッカーズのカントリーだ。5万円もする靴を買う女性はまだまだ少ないと思うが、ぜひ履いてほしい。 穿き込んだ太めのチノパンに、マカラスターのセーターをカジュアルに着こなす。それはもう凄くカッコいいと思う。もともと耐久性のある靴だけに、ヒールを修理して履けば何年ももつ。安いのを何足も履くより、けっきょくは得だ! 有名セレクトショップか、トレーディングポストに行けば扱っているはず。ウイング・チップ用にわざわざ買った靴下
ウイング・チップが好きになると、次はそれに合う靴下が欲しくなってくる。ツイード・ジャケットやニットといったカジュアルな着こなしに合わせることが多いので、靴下も英国カントリー調のウール素材のものを選んでしまう。最初にウイング・チップ用に買った靴下はポロ・バイ・ラルフ・ローレンであった。 忘れもしない1985年1月、大阪の阪急百貨店で買ったものだ。詳しく覚えていることが、凄く貧乏くさいような気がしてくる(苦笑)。当時としてはかなり高額で、10代の若者が気軽に買えるものではなかった。おそらく製造はナイガイのランセンスだろう。1980年代中頃、ラルフ・ローレンとポール・スチュアートはトラッド好きの間では別格だったのである。お金持ちの御子息なら英国バイフォードの靴下をまとめ買いできるだろうが、庶民にはライセンスのポロが限界だったのである。 その後、‘80年代後半によく買ったのが、吉祥寺パルコに入っていたテイジンメンズショップとコレクターズというショップ。とくにコレクターズでは大好きなハリソンとブルックリンを扱っていたこともあって、よく買ったものだ。現在ブルックリンは青山に店舗を構え、オリジナルの革製品やクロージングを展開している。残念ながら靴下は作っていないようだ。
ハリソンは以前このサイトで紹介したが、現在でもOEMとオリジナルの靴下を手掛けている。ここのアーガイルソックスは定番中の定番なのだ。靴下は何度か洗っているとブランドがわからなくなってしまうから困る。今回撮影のためにブランド確認をしたのだが、ぜんぶロゴが消えてしまっていて不明ブランドが多かった。
コットン素材も悪くないが、真夏以外はウールの靴下もいいもんだ。弱点は靴のなかでツルツルすべることと、乾燥機にかけたら最後、二度と穿けなくなるくらい縮んでしまうことだ。あと、踵付近に毛玉ができてしまう。いいところは早く乾くことと保温性に優れている点だ。
気に入った靴はすぐにでも買うこと
現在巷にはいろいろな高級既製靴が溢れているが、あえて地味なウイング・チップを選んでみては?という提案をさせてもらった。いまにして思えば、チャーチが5万円で買えた時代に、もっともっと買っておけばよかったと後悔している。というか本気で落ち込んでいる。借金しても一生分買っておけばよかった!次に買うのは4万円で買えるリーガルが手掛けるニュー&リングウッド、ジョンストン&マーフィーあたりか。それともトレーディングポストのオリジナルか……。いつでも買えると思っているとほんと買えなくなってしまうから。
【関連記事】