あなたが家を売りに出せば、それを買おうとする人が見学にやって来ます。たった1組の購入希望者が見に来ただけですんなりと売却の契約が成立するときもあれば、20~30組が来たのにもかかわらず一向に買い手が決まらないときもあるでしょう。
今回は購入希望者が見学にやって来たときの迎え方、接し方、注意するポイントなどについて説明をすることにします。
知らない不動産業者が購入希望者を連れて来る
購入希望者(見込み客)などが売却物件の建物の内部を見ることを「内見(ないけん)」といいますが、このとき購入希望者を連れて来るのは、あなたが売却を依頼した不動産業者だとはかぎりません。売却の依頼先(媒介契約の相手業者)がA社だとして、A社が自らの顧客を連れて来る場合もあれば、A社から物件情報の提供を受けたB社が連れて来る場合もあるのです。
ただし、あなたにとって見ず知らずのB社が購入希望者を連れて来るときでも、ほとんどの場合は売却を依頼したA社の担当者が立ち会うはずですから、あまり心配しなくても大丈夫です。
この場合のB社は、あなたに挨拶はするものの、名刺は渡さないことが多いでしょう。これはB社が礼儀を欠いているのではなく、A社に対する配慮です。
仮にB社から名刺を受け取ることがあっても、あなたからB社へ連絡をすることはNGです。あなたの担当窓口はあくまでもA社であり、契約がまとまってB社と何度も会うことになってもそれは変わりません。
行き届いた清掃、整理整頓を心掛ける
部屋の中を急に飾り立てようとすれば無理が生じるだけ。それよりも清掃や整理整頓、片付けを優先!
あなたがこれから売ろうとしているのは数千万円の「商品」だという認識と同時に、競合物件との「争い」であるという意識も欠かせません。
だからといって、部屋の中を過度に飾り立てたりする必要はまったくありません。しかし、あちらこちらにホコリが溜まっていたり、部屋が乱雑になっていたりするのは論外です。
売却活動の間は、普段よりも少し神経質なくらいに清掃や整理整頓を心掛けるべきでしょう。一戸建て住宅の場合には、建物の周囲をきれいに片付けておくことも必要です。
また、ペットやタバコの臭いを気にするお客様もいますから、内見予定時間の前に部屋の中を消臭(できれば無臭タイプで)しておくことも考えましょう。
何年か前のことになりますが、私自身がお客様を他社の物件へご案内したときに、部屋の中があまりにも乱雑で、床や家具の上、テーブルなどにたくさんの本や雑誌、日用品などが散らばったままの状態だったことがあります。
私のお客様はほんの10秒ほど見ただけで「この物件はやめよう」と言って、すぐに部屋を出てしまいました。図面などで見るかぎりはお客様の希望条件を満たした物件でしたが……。
部屋の中を見た途端にテンションが下がるような物件は、たいてい「まわし物件」として扱われるだけでいつまでも買い手が見つかりません。
「まわし物件」とは、他の物件を引き立てるためにわざと見せる「価格に比べて見た目の悪い物件」なのですが、それは不動産業者が作り出すのではなく、多くの「まわし物件」は売主の自覚が足りないことなどが原因で、売主が自ら売れなくしているようなものだといえるでしょう。
聞かれたことには正直に答える
内見の際に購入希望者から聞かれたことに対しては、それがたとえマイナス要因になる内容だとしても正直に答えることが必要です。そのマイナス要因を考慮したうえでの価格設定であることを説明すれば、たいていは納得してもらえるはずです。ただし、その受け答えは売却を依頼した不動産業者の担当者に任せて構いません。担当者が答えられないことについて、売主が補足をするという感覚でよいでしょう。
売りたいという意識が強くなるあまりに、売主自身が饒舌にセールストークをすることは考えものです。購入希望者から足元を見られることにもなりかねません。
ぶすっと押し黙ったままでもダメで、ある程度は愛想よくしなければいけませんが、あまりしゃべり過ぎず、物件の説明に必要のない話はなるべく控えることも大切です。
ただし、その場の雰囲気に合わせて軽い世間話程度が必要になるときもありますから、空気を読むことが欠かせません。
また、売主のほうから購入希望者のプライベートなことについての質問は差し控えるようにしましょう。「本当に買えるのですか」などと相手を疑うような質問も厳禁です。
なお、あなた自身や家族が立ち会わず留守の状態にして、内見への対応をすべて担当者に任せるケースも考えられます。このようなときに購入希望者からの質問に対して、担当者が「後で確認します」という返答ばかり繰り返したのでは、購入意欲をなくしてしまうでしょう。
そのようなことにならないためには、打ち合わせなどを綿密に行ない、あなたの物件に関することを担当者の頭の中にしっかりと入れてもらっておくことが大切です。
売却期間中のレジャーなどはなるべく控える
家を売るときには、内見のアポイントのための連絡がいつ入るか分かりませんし、内見希望の曜日や時間が自分の都合どおりになるとはかぎりません。売却を依頼した不動産業者からの連絡は、いつでも取れるようにしておくことが大切です。「今から30分後、1時間後」といった急な内見希望が入ることもあるでしょう。
内見をしたいという購入希望者が現れたときに、旅行中だからダメ、遊園地に行っているからダメ、家族揃って食事に出掛けているからダメ、などということを繰り返していたら売却の機会を逃すだけです。
法事など外せない用事があるときにはそちらを優先して、予定をあらかじめ担当者に伝えておくようにし、それ以外の不要不急の長時間にわたる外出(家族全員での外出)はなるべく控えるようにするべきです。夫婦のどちらかが残れば、ほかの家族は旅行に出掛けても構いません。
ただし、内見のタイミングに合わせて、夫か妻のどちらか一方だけが残って小さな子どもを外に連れ出してもらったほうがよいケース、あるいはあえて家族全員に出掛けてもらって留守にし、担当者だけで対応したほうがよいケースもあります。
わざと留守にするときには担当者との信頼関係も重要ですが、実際にどうするのがよいのかは、担当者としっかり打ち合わせをするようにします。
なお、売主夫婦が共働きでお互いに忙しく、購入希望者が内見をすることのできる曜日や時間が限定されてしまうような場合には、売却成立の機会が減ることになりますから、売却に向けた戦略を不動産業者としっかり練り上げることも必要です。
売主が住んだままでのオープンハウス
不動産業者の案内による購入希望者の内見だけではなかなか売却が決まりそうにないときなどには、売主の家族が住んだままの状態でオープンハウス(マンションの場合にはオープンルーム)を実施することもあります。オープンハウスとは、日中の一定時間に家を開放して来場者に自由に見てもらう販売方法です。この場合に、オープンハウスの時間中は売主の家族全員に外出してもらい、不動産業者の担当者だけが残って待機するケースも少なくありません。
そのためには担当者との信頼関係が重要なことは説明するまでもないでしょう。
また、オープンハウスのときには、購入意志のない近所の人が興味本位で見に来ることもあり得ます。隣人などに見られてはまずいものがあれば、しっかりと片付けておくことも必要です。
オープンハウスが必要かどうか、あるいはそれが有効かどうかはケースバイケースですから、売却を依頼した不動産業者の担当者とよく話し合うようにしましょう。
スリッパを用意するなら4人分
内見のときにスリッパがなければならないというわけではありませんが、もし来客用のスリッパを新たに用意するのであれば4人分で構いません。購入希望者2人(夫婦で来ることが多い)と購入希望者を連れて来る不動産業者、それにあなたの側の不動産業者の4人です。内見の総勢が5人または6人のときには不動産業者がスリッパを使わなければ済みますし、それよりも多い人数で見に来るときに「スリッパが足りない」などと気分を害する購入希望者はいないでしょう。
ただし、スリッパがないときにもし床が汚れていれば、購入希望者がその汚れに気付きやすく、相手によっては購入意欲が下がることにもつながりかねません。細かなことでも十分な気配りが大切です。
空室にしてから売る場合
買い先行で新居に引っ越しをしてから売る場合には、これまでに説明したことをあまり考える必要はないでしょう。いったん空室にして全体を清掃し、鍵を不動産業者に預ければ、基本的には内見の際に売主が立ち会う必要もありません。また、空室であれば不動産業者は内見の時間設定の自由度が増し、上記のオープンハウスの開催も容易になるほか、購入希望者に対しても部屋の隅々までチェックできるというメリットが生まれるため、住んだままのときよりも空室になってからのほうが売りやすいともいえます。
そのため、買い先行の場合ではなくても、あえて賃貸物件に引っ越して空室にすることを勧める担当者もいるでしょう。しかし、これから売却する物件の住宅ローンと家賃との二重負担になったうえに売却が思うように進まなければ、かなりの負担増となることが避けられません。
なお、近年は「ホームステージング」による販売手法もだいぶ取り入れられるようになってきました。これは部屋の中に家具や小物をコーディネートすることで生活をイメージしやすくするなど、購入希望者に好印象を与えて売却をスムーズに進めようとする手法です。
ホームステージングに使う家具や小物などはレンタルで用意できますが、不動産業者が対応してくれなければ円滑に進められない場合も多いでしょう。
実際にどうするのがよいのかは担当者とよく話し合ったうえで、慎重に考えるべきです。
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