小学生の子どもを持つAさんの理由は「健康上の理由」と「経済的な事情」
今、目の前にいる1人目のこの子が大切だから。 |
産後に体調を崩した経験があり、また子どもも身体が弱く入院するようなこともあったため2人目を考える余裕がなく、ここまできました。
さらに最近、「このまま1人っ子でいこう」という気持ちを強くしたのは、子どもが「中学は、クーラーのある学校に行きたい」と言い出したことです。Aさんの住む地域では夏の暑さが厳しく、身体の弱いAさんの子どもにとってはかなり過酷な環境。Aさん自身も、授業参観の途中で暑さで気分が悪くなり、途中で抜け出したほど。
「クーラーのある学校」というと、当然受験のある私立中学になります。そうするとお金がかかり、とても「2人目」を産む余裕はない、ということなのです。「まだ見ぬ2人目よりは、今間違いなく私たち夫婦の前で生きている娘の夢を叶えてあげる方がいいだろう、と。夫とも、こんな話をしています」
正直なところAさん自身も、今住んでいる地域の公教育には多少失望を感じています。中学受験の話は子どもの側から出たものですが、Aさんとしても「もし子どもが望むのなら精一杯応援してやりたい」という気持ちがあるのです。
Aさんはできるだけ中立な立場でいようと、中学受験のメリットとデメリットの両方を伝えるように心がけていますが、Aさんの子どもはやる気マンマン。このまま熱が冷めなければ、4年生の後半から塾に行かせようかと考えています。
「結婚した頃は子どもは立て続けに3人…と思っていました。それが出来なくても年子で2人は欲しかったかな、当時は。でも、今は娘1人で5人分くらいの経験をさせてもらっているので、本当に“1人でも授かったので充分”といった感じです。」と、Aさんは心を決めているようです。
大切なのは「幸せに育つ子どもが増えること」
「子どもを大事にすればするほど、子どもの数が減る」-これは家族社会学の研究者・山田昌弘氏 『近代家族のゆくえ』(新曜社 1994)の一節ですが、今回の2人のお話を聞いていていて、この言葉を思い出しました。子どもがかわいい。子育てが面白い。そんな人たちほど今の生活に満足していて、「あえて2人目を」とは思わないようです。子どもが増えることで、うまくいっている今の生活が変わってしまうのは避けたい、というのが本当のところでしょう。
杉山由美子氏『ひとりっ子時代の子育て』(NHK出版 2005)によれば、「ひとりっ子は社会適応しているし、知的活動も得意です。」とのこと。親のほうに「ひとりっ子でいいんだろうか・・・」という迷いさえなければ、むしろ「ひとりっ子のほうが親の愛情も習い事のチャンスも惜しみなく与えられ、余裕のある育ちをしている」という説も紹介されています。
先行きが不安定な今の社会で、マジメな親たちは子育てにおいて「あのときああしておけばよかった」という後悔だけはせずに、手を抜かずに子どもを育てたいと思っています。昔のように「学歴さえあれば」という時代ではないぶん、「子どもへの投資」は単なる学力への期待だけではなくなっているのです。そのために、身体のための「いい食事」や習い事など「今しかない子ども時代」を充実して過ごせるための環境づくりに熱心になるのは、ある意味当然ではないでしょうか。
「子育てにお金がかかり過ぎる」そう言えるのかもしれません。例えばYさんのように「満足できるような保育園がたくさんあり、手頃な保育料であれば」、Aさんの場合は「公立の学校が満足できるようなものであれば」といった点が「産みづらい理由」になります。こうした点が改善されれば、2人目を躊躇なく産む人は若干増えるかもしれません。
ただ、「誰にとっても2人目を産むことがゴール」ではないことだけは確かです。様々な条件が整っても出産を選ばない人もいるように、「子ども1人」の生活を楽しんでいる人々にとって「2人目は?」というのはとても失礼なこと。「2人目を産みづらい状況」が改善されるのはもちろん必要なことですが、同時に「ひとりっ子家庭」のあり方も尊重されるべきです。
大切なのは、「ただ子どもの数を増やすこと」ではないはず。「幸せに育つ子どもが増えること」-このことさえ叶えられるならば、ひとりっ子でも2人きょうだいでも3人以上でも構わないのではないでしょうか。
■参考文献
山田昌弘 『近代家族のゆくえ』 新曜社 1994年
杉山由美子 『ひとりっ子時代の子育て』 NHK出版 2005年
■関連サイト
静かなる第二子不妊【子育て事情】
保育園が増えれば子どもを産む?【幼稚園・保育園】
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