葱商が守り続けた千寿葱とは?

究極の長葱、千寿葱

持つ手の指と比べると立派さが伝わります。

一般的には知られていませんが、浅草近くの千住という町に、日本で唯一、長ねぎだけしか扱わない市場があります。こだわりの葱農家が自分の畑で収穫された最も出来の良いもの、「おらが畑の一等賞」の葱だけ持ち寄り、出来を競い合います。この葱を「千住葱」もしくは普通の千住系葱と区別するために「千寿葱」と呼ばれています。

この千寿葱、実は約二百年前から江戸の食通をうならせてきた極上の葱です。特に明治時代に続々と生まれた鍋屋の間で、「飛び切り甘くて煮崩れをおこさず、それでいて口の中に入れるととろける葱がある」と評判になり、蕎麦屋の間では「薬味にすれば一本でほかの葱の倍以上取れる」と言われ、瞬く間に東京中の鍋屋、蕎麦屋、焼き鳥屋、すき焼屋など、葱を多く使う料理職人の間に広まったそうです。
 
千寿葱
何段にも積み上げられた立派な葱
約二百余年間、市場の売り子は世襲制で、葱商(ねぎの鑑定人)と呼ばれています。葱商たちは血縁者か、十年以上葱商の下でよい葱を見極める経験を積んだ者でないと、千寿葱を扱う事は出来ないという規則を貫いているそうです。葱商は単に流通を担当するのではなく、農家の葱をさらに厳選し、お得意である、料理人たちから信頼を勝ち得てきたのです。

先日お邪魔した葱市場には、極上の葱が積みあがり、競りを待ちかねていました。この市場は一般には公開されておらず、私は葱商の『葱茂』さんのご好意で、競りを撮影させて頂きました。周囲には葱の匂いが立ちこめ、競り場にいるだけで風邪が治りそうです。6時半の競り開始から約20分で山のような葱は競り落とされ、有名料理屋向けに車に積み込まれていました。
 

千寿葱が何故すごいのか?

千寿葱を作っている農家は5軒ほどです。歴史のある農家になると、6代目という方もいらっしゃいます。今回の取寄せは、その6代目金次郎氏の千寿葱です。
 
千寿葱
しっかりした根が千寿葱を育てます。
葱の種がすごいというのではなく、やはり、栽培法にノウハウがあるようです。同じ種を他の農家が使っても、金次郎氏のような立派な葱は作れないそうです。陽気を感じ、水や肥料を微妙にコントロールしながら、極太の千寿葱を生み出すのです。

特に粘土質の畑の葱は根が伸び難いので、葱が根を伸ばす為に頑張るため、しっかりした丈夫な根が張り、葱本体もうまくなるようです。

 
千寿葱
幾重にも巻いた葱の切り口から水分が湧き上がります。
今回の葱は最高等級の金品の(太)です。実際に計量したところ、18本で何と4.5kgでした。普通の長ネギは45本で4kgが規格ですから、見た目だけでなく、身のつまり具合が違うわけです。約3倍もの重さの千寿葱は巻きが多く、根元は12巻きほどにもなるそうです。切り口からは汁が沸きあふれ、非常にジューシーです。
 

千寿葱を食す

千寿葱
葱が主役の味噌汁は素晴らしい味わい
この葱は万能の主役葱です。薬味でも良いですし、ローストしても、焼いても、煮ても良いです。ともかく、うまい葱です。

今回は葱本来の味を確かめる為に、焼き葱の味噌汁を作りました。
 
千寿葱
じっくりと遠火の近火であぶります。
昆布と鰹節で取ったおだしで味噌汁を作り、その中に網で焼いた千寿ねぎを入れ、ほんの20秒ほど味を馴染ませて出来上がりです。香ばしく焼かれた千寿葱の香りも堪能したいので、先に具なしの味噌汁を作り、最後のさっと焼き葱とあわせる程度に仕上げます。

千寿葱のうまさは複雑です。
まわりの白い部分と中央部の芽の部分では、食感も味も全然違います。白い部分はうまさと香りが強調され、中心部分は甘さが際立ちます。かといって、下仁田葱のように甘さ一辺倒ではなく、辛さも秀逸です。

驚くことに緑の部分も柔らかく、薬味としても十分に使えます。美味しい葱は青い部分まで美味しいと言う意味では、西の九条ネギVS東の千寿葱 という感じです。
 
千寿葱
立派な箱に入った最高級葱です。
金品の太の規格は極上の千寿葱の中でも3割程度しかない、さらに極上な品です。
立派な化粧箱に入って3500円ですが、ご馳走と思えば安いもんです。箱に入れて日の当たらない冷暗所に立てておけば、1週間はまったく問題ないです。

千寿葱であれば、1人毎日1本は軽く食べてしまいます。18本だとして、家族3人で1週間で完食です。冬場の1月~3月の間が、千寿葱が一番美味しい季節です。
風邪の予防にも葱は大変良いようです。

江戸から続く、伝統野菜。 さすがに故池波正太郎先生が愛して止まなかった千寿葱です。きっと江戸の鬼平も千寿葱と軍鶏でうまい鍋を食していたのでしょう。
 

取寄せ情報

葱茂
担当:葱茂三代目の安藤将信さん


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