<目次>
「ラボードカメレオン」の寿命は超短命……?
「ラボードカメレオン」の寿命
比較的近縁なパンサーカメレオン |
画像提供:レオレオ・カメレオンファーム |
アメリカのオクラホマ州立大学のKristopher B. Karsten氏らの研究チームがアメリカ科学アカデミー紀要電子版に発表した論文「A unique life history among tetrapods: An annual chameleon living mostly as an egg」によると、アフリカはカメレオンの聖地マダガスカル南部に生息するカメレオンの一種であるラボードカメレオンFurcifer labordi は、孵化後5ヶ月で寿命をむかえて死に至る、ということがわかったそうです。
孵化してから5ヶ月で寿命をむかえるというのは、地球上に3万種生息する四足動物の中でも、もっとも短い寿命であると考えられるようです。
もう少し詳しく
研究チームは現地でカメレオンの調査をしている時に、年間のカメレオンの個体数等を記録していたようです。この時に、同所的に生息する近縁種のスパイニーカメレオンFurcifer verrucosus は、現地での雨季である11月上旬に孵化し、翌年4月まで急激な成長を遂げて、4月から10月いっぱいまでの乾季の間は夏眠を行い、その後11月に目覚めた後、繁殖行動に入るということがわかりました。これだけでも、たった1年で性成熟するわけですから、相当速い成長です。
ところが、問題のラボードカメレオンは11月上旬に孵化した後、なんと1日に2.6 mmも成長しながら2ヶ月後の1月上旬には繁殖行動に入ることがわかりました。
そして、驚くべきことに孵化してから4ヶ月後の3月には産卵を行い、乾季に入る4月にはすべての個体が死滅してしまうことがわかったのです。
また産み落とされた卵は乾季の間は休眠し、7-9ヶ月ほどで孵化に至ったそうです。
大きさで見てみると、スパイニーカメレオンは25mmほどの頭胴長で孵化し、およそ11ヶ月をかけて、繁殖可能なサイズである13cm程度に成長する、つまり孵化時期には親サイズの個体が同時に存在するのですが、ラボードカメレオンの方は20mmくらいで孵化した後、2ヶ月後の1月には繁殖可能なサイズである8cm程度に成長してしまうことがわかりました。そして、孵化時期の11月には親サイズどころか、1個体の若年個体も見つけることができなかったそうです。
また、4月の時点でフィールドで見られた多くのラボードカメレオンの死体は、すべて切断されたり、捕食者によって食われた形跡がなかったため老衰、つまり寿命で死んだと考えられるわけです。
たった5ヶ月という寿命
とにかく、理由はどうあれ、この5ヶ月という寿命はとてつもない短さです。おそらく四足動物で、もっとも寿命が短いのは小型のネズミの仲間だと思われますが、それでも2年くらいは生きるわけです。
ネット上などを見ると、このニュースを見て「じゃセミはどうなるんだ?一週間の命じゃないか!」なんて言う人もいます。ってかセミは四足動物じゃねーし。
だいたい、セミが一週間の命、なんてのが間違っています。ご存じのようにセミはアブラゼミでも7年間は土の中で幼虫として生きていて、それが地上に出て成虫になったら一週間の命ということですから、7年と一週間は生きるわけです。
私も子どもの頃に、水生昆虫のカゲロウが「わずか数時間から数日の命」というのを見て、「なんて儚いんだ」などとも思ったわけですが、よく考えたら水中で1年以上、幼虫として生きているわけです。
今回のラボードカメレオンは、そういうのとは違います。卵から孵化してわずか5ヶ月しか生きていないわけです。これを短いと言わずして、何を短いというのか。
ただし、おそらく卵の中で孵化せずに乾季である夏をしのいでいる、つまり卵の中で生きている、と考えれば9ヶ月+5ヶ月で14ヶ月なんですが。
でも、それでも短いですよね!?
さて、一般の方は、これくらいの情報でいいでしょうか。
次は、ちょっと難しく、この異常とも言える生態にどんな意味があるのかを考えてみましょう。
ラボードカメレオンは乾季がイヤ……?
マダガスカルの、このカメレオンが生息する地域はサバナあるいはステップ気候で、雨季と乾季が大きく別れています。多くの生き物たちは雨季に繁殖や成長を行い、厳しい乾季は夏眠をしてしのぐという方法をとっています。
ラボードカメレオンは、この乾季をあえて経験せずに、どうせキビシイ季節なのだから、あとは自分たちの子どもたちに任せて、大人は舞台から降りよう、みたいな方法をとったのだと考えられます。
こうすることによって、繁殖可能な個体が繁殖前に乾季の間に命を落としてしまうことを防いでいるわけです。確かに、若くて元気なまま繁殖するのですから能率はいいでしょう。
進化の視点から
私は、悔しいことに生物学者ではありませんので、ここからは何の科学的根拠もなく、自分の想像力だけで話させていただきます。そもそも、生き物がこの世に存在し、生きようとする理由というのは3つあると思います。つまり「個体の生命の維持」「子孫を残す」「種として進化をする」の3つです。
「個体の維持」とは、つまりその1個体が命を永らえるような働きです。
空腹だから餌を食う、眠いから寝る、寒いから日光浴をするという感じでしょう。
「子孫を残す」は生物の義務でしょう。
つまり、交配相手を見つけて、繁殖行動を行うために縄張りを張ったり、婚姻色を発色させたり、戦う力を強くしたり。こうして自分の遺伝子を残し、さらに新しい遺伝子を組み込むことによって、親世代よりより生き抜く力がある子孫を残していく、と。
「種として進化する」は非常に長いスパンの話ですが、遺伝子に多様性を持たせて、さまざまな環境に適応していく力を、種族として身につけていく、ということでしょう。これは、とにかくさまざまな遺伝子を取り込んで、蓄積することによって進むことです。
こういう視点から見ると、ラボードカメレオンの「短い寿命」というのは、どんな意味を持っているのでしょうか。
速い世代交代が進化を促進する?
おそらく、世の中でもっとも進化が速いのはバクテリアの仲間でしょう。彼らの世代交代は、下手をしたら数時間単位です。つまり1匹のバクテリアが1日で、等比級数的に数十億匹以上に殖えるのです。
個体が新たに獲得する能力が、遺伝子の突然変異であると考えれば、繁殖するときこそが唯一の遺伝子の突然変異を起こすチャンスです。
ですから、バクテリアであるブドウ球菌などはあっという間に抗生物質に対する耐性というやっかいな新しい能力を身につけてしまうのです。
つまり、遺伝子に起こる突然変異が偶然の賜物であると考えれば、進化は確率論だけに支配されるわけですから、当然、世代交代が速ければ速いほど、短い時間内に突然変異を起こす確率もアップしますし、速く進化をすることができるでしょう。
そう考えれば、ラボードカメレオンは四足動物としては異例の速さで世代交代を起こすわけですから、より速く進化して種として繁栄していくのかもしれません。
もしかして速すぎ?
ただし、進化には遺伝子の変化だけでなく、環境の変化への適応も関係しているのは間違いないでしょう。つまり先ほどのブドウ球菌のように、バンバン新しい抗生物質という環境の変化に直面するからこそ、進化をしてしまうわけです。
幸か不幸かカメレオンという生き物は、形態が非常に特殊でさまざまな環境への適応を起こしている生き物であると考えられます。
例えば、素早く変えることができる色彩、別々に動かして広い範囲を同時に見ることができる目、遠くの餌動物も確実に捕らえることができる伸びる舌、樹上生活に特化してしっかりと枝を捉えることができる指と尾...枚挙にいとまがありません。
そして、その結果、特別に新しい環境を求めるために必要な「強い移動力」というものを失っているわけです。
ということは、いくら世代交代が速くても、いつまでも同じ環境で生活をしているわけで、新しい環境に到達したり出会うヒマがないのではないでしょうか?
爬虫類の寿命
爬虫類というのは、一般的に考えられているよりも寿命が長い生き物たちです。小さなトカゲだって5-10年くらいは生きるのですから。そう考えると、ラボードカメレオンは異常な短さなのですが、コレって心当たりがあるような気もしませんか?
例えば、ある種の小型のヤモリなんかは、どんなにうまく飼育していても、いつも突然ポロッと死んでしまったりすることがあります。
あるいは、カメレオンの仲間が飼育が難しく、長生きさせるのが難しい、というのとも無関係であると言い切れないような気もします。
今回の研究チームの研究者たちも、飼育下で短命に終わるカメレオンとの関係の可能性も否定しきれない旨の意見を述べているようです。
とにかく、寿命が短い生き物を飼育するときは、短い生涯を幸せに過ごさせてあげたいものです。
ま、こんなことを考えていると、本当に今回のニュースというのは不思議であり、実に興味深いと言えます。本当に生き物の世界はおもしろい、と思わせてくれるニュースでした。
おっとと。じゃ、最後にラボードカメレオンという種類をホビーの目から見ておきましょう。
ラボードカメレオン
ラボードカメレオンはパンサーカメレオンと同じFurcifer 属の種類で、これまでも比較的、カメレオンのマニアには知られていた種類であります。比較的近縁なパンサーカメレオン |
撮影協力:レオレオ・カメレオンファーム |
分布はマダガスカル南部で、乾燥した林などに生息しているようです。
体長は30cmほどと言われていたようですが、別種なのか、あるいは個体群の差なのか、今回の論文から考えると、体長はオスで13cm程度のようです。
基本的な体色はグリーンで、体側に白色のラインが目立ちます。
オスは吻端に角状突起が発達しますが、尖ったりせず先端が丸いコブのような感じのようです。
メスの体色カメレオンの中でもトップクラスと言われているらしく、黄色や黄緑をベースにオレンジ色、青、白などの模様が入り、特徴的なのは首やノドに赤いスポットが入るそうです。残念ながら今回は画像を用意できませんでしたが、画像検索サイトで学名で検索をかけると見つけることができます。ま、パンサーと同じ属なんですから、美しいのは当然なのですが。
これまで流通したことは非常に少ないそうなのですが、さまざまな環境に対する適応は高く、カメレオンとしては飼育は難しくないそうです。
でも、5ヶ月しか飼育できないんじゃねぇ...
それに、孵化した幼体を異常な速さで成長させるための給餌とかも並大抵じゃないのでしょうし。そういう意味では、飼育が難しいカメレオンなのかもしれません。
ま、とにかく、もう世界中のあらゆる種が流通してもおかしくない国内の両爬流通事情ですから、この種もあらためて流通する日が遠くない未来に来るかもしれません。もしも、入手して飼育を始められた方は...あっという間に寿命が来てしまうかもしれない覚悟だけはしておきましょう!!
【関連サイト】
カメレオンの仲間
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