爬虫類の孵化率アップを目指す!
孵卵用床材はどうする?
両爬飼育入門コトハジメ・孵卵用床材についてご紹介していきます!
<目次>
- 爬虫類の卵!トカゲなどの柔らかい卵・カメやワニなどの硬い卵
- 自然下での爬虫類の孵卵
- 爬虫類の孵卵・孵化に必要な要素
- 孵卵用床材いろいろ
- 園芸流用床材の正体に迫る
- バーミキュライト、ミズゴケなど各素材の長所・短所
爬虫類の卵!トカゲなどの柔らかい卵・カメやワニなどの硬い卵
さて、まずは爬虫類の卵について簡単におさらいしておきましょう。ご存じのように、爬虫類の卵は2つのタイプに分かれます。つまり鶏の卵のように硬い殻を持つ卵と、皮革のような柔らかい殻を持つ卵です。カメ類とワニ類、そしてヤモリ科の多くは硬い卵を産みます。一方、ヘビ類とヤモリ科を除くトカゲの仲間たちは柔らかい卵です。
どちらにしても、爬虫類の卵はその表面が炭酸カルシウムによって形成された卵殻を持っていて、それが緻密な結晶になっているのが硬い卵、繊維状の卵膜に炭酸カルシウムが散在している程度のものが柔らかい卵です。
この二つの卵の大きな違いは「水分」の出入りです。
卵だって生きていますので、もちろん呼吸をしますし、代謝もします。そして生きていくためには水分が必要です。呼吸は酸素と二酸化炭素のガス交換が必要です。つまり卵も外から酸素を取り入れて、不要な二酸化炭素を外に放出するわけです。これは卵殻で行っています。柔らかい卵は卵殻も薄く炭酸カルシウム分も結晶化していませんので、卵殻のほぼ全域でガス交換が可能です。
一方、硬い卵は卵殻も厚く、炭酸カルシウムが結晶化して密になっていますのでそれができません。そのために卵殻にはところどころ炭酸カルシウムの結晶の隙間があって、そこをガス交換用に使っていると考えられています。つまり換気口が開いているわけです。
次に卵の代謝です。わかりやすく言えば、卵もご飯を食べて、排泄もしているということです。ご飯、つまり栄養分はすべて卵の中にもともとある卵黄から吸収しますので、外から栄養を補給する必要はありません。
一方の排泄はどうしているのでしょう?排泄物の主な要素は窒素です。爬虫類は、この窒素を「尿酸」の形で排泄します。卵の中の個体(胚)も尿酸を排泄しますが、これを胚からつながっている「尿嚢」という袋に入れてしまうわけです。また尿酸は水に溶けないため尿嚢からもれ出すような心配もありません。
さて最後は「水分」です。何よりも爬虫類は卵を陸上で産むことができるようになったことでここまで発展したグループですから、卵は陸上の環境つまり「乾燥」に耐えられる構造をしています。
硬い卵は炭酸カルシウムが密になっていますので、ほとんど水分が失われないことが知られています。ですから硬い卵の場合は、孵卵にも水分はほとんど不要である考えていいでしょう。
一方、柔らかい卵は卵殻が隙間だらけですから、容易に水分は蒸発してしまいます。そこで柔らかい卵は外から水分を補給しながら成長をさせなくてはいけません。卵の中の液体(羊水)はタンパク質や排泄の時に少量生じる水に溶ける成分である尿素が溶けている溶液になっているため、浸透圧が高く卵殻の外から水分が自動的に吸収される仕組みになっています。そのため、ヘビやトカゲの卵は成長するに従い大きく膨張し、産卵時の2倍以上の大きさになることもあります。とにかく、柔らかい卵は孵化のために、外から水分を補給しなくてはいけないわけです。
自然下での爬虫類の孵卵
ただし爬虫類の卵のことが理解できたと言っても、それだけではおそらく孵卵を語ることはできないのだと思います。例えばカメレオンやリクガメなどは、非常に孵化までの期間が長くなる場合があります。中には300日に近い期間がかかることもありますから、もちろんその間に乾燥する時期もあるでしょうし、大雨が降って孵卵中の卵が水浸しになってしまうようなこともあるかもしれません。逆に言うと、孵卵中にそのような環境の変化を与えていくことが孵化に必要なことなのかもしれません。彼らが長い時間をかけて進化することで得た繁殖の戦略であるとも言えるでしょう。
つまり、例えば「この時期に深さ10cmの場所に産卵すれば、100日目に大雨が降って、その後に30℃の地温が40日続いて……」とか。本当の孵卵はそういう環境の再現が必要なのでしょう。
ただし、やはり全く無防備な卵の状態が長い、ということはそれだけのリスクが伴いますから、多くの爬虫類はなるべく早い時間、例えば2ヶ月くらいとかで孵化する戦略を持っているでしょう。その短い期間に大きな環境の変化がある、あるいはそれが必要であるとは考えにくいので、とりあえずは好適な環境を維持しておくことが最低限必要な孵卵の条件であると言えるでしょう。
このように考えれば孵卵用の床材に必要な要素というのも自ずと見えてくるはずです。
爬虫類の孵卵・孵化に必要な要素
以上のように卵を理解すると、卵殻が硬いタイプの爬虫類の孵卵には「呼吸用の空気」が、そして卵殻が柔らかいタイプの爬虫類の場合は「呼吸用の空気」と「水分」の供給が必要であることがわかります。つまり床材に必要な条件は
・通気
・保湿
ということになります。
しかし、賢明なみなさんは、この二つは相反する条件であることに気づかれることでしょう。あまり通気性が高いと水分はすぐに失われてしまいますし、多湿を維持しようとすれば空気の出入りを遮断するのがもっとも効果的だからです。
ヘビの卵の孵卵 |
ですから、孵卵用の床材は「適度な湿り気を維持しつつ、通気性がよいもの」を選ぶことになります。そんな都合が良いモノがあるのかと考えてしまいますが、実は結構あるんです。
こんな趣味をしていると、ついつい視野が狭くなりがちなんですが、「通気性と保湿の両立」が条件というのは、私たちの生活の中でも結構望まれる条件と言えます。特に似ているのが「園芸」です。中でも「ランの栽培」は、そういう必要な条件が非常に似ていて、孵卵に役立つものを多く見つけることができます。「ラン」と「卵」……ちょっと出来すぎか。
要するに、園芸用の素材を孵卵用の床材に利用できます、ということです。
孵卵用床材いろいろ
さて、それでは現在、孵卵に利用される素材をいろいろと見てみましょう。ただし、ここからはカメやヤモリのような「硬い卵殻」を持つ卵ではなく「柔らかい卵殻」の卵の孵卵を中心に考えてみたいと思います。私は、あんまり飼育している爬虫類のブリーディングは得意ではないので、偉そうに言えないのですが、それでも多少の経験からなかなか孵卵用の床材選びって難しいなと感じているんです。ですから正直に言うと、毎年その素材って変えています。適当にその辺にあるものを使うって感じです。
じゃ、その結果はどうなのかというと、実はそんなに孵化率に影響しているとは感じてはいませんでした。
私が今まで使ってきた孵卵用床材を箇条書きで紹介してみましょう。
- バーミキュライト
- ミズゴケ
- ピートモス
- パーライト
- 海の砂
- これらのうちのいくつかを組み合わせる
じゃ、これらに一長一短があるかというと、それほどの違いは感じられていません。どれも「ああ、これはダメな卵だな」と思った卵はダメになるし、最初から「これはイイ卵だな」と感じた卵はうまく孵化しています。強いて言うなら、ピートモスのみの時は湿度の調節が難しく孵化率が低かった記憶があります。
園芸流用床材の正体に迫る
ここが職業柄か、私の悪いクセで、上に挙げた素材の「正体」というのは明らかにしないと気が済みません。ちょっと化学の目でこれらの素材を確認してみましょう。ま、ネットで調べられる範囲なんですけどね。・バーミキュライト
バーミキュライト |
園芸用に使われる素材です。
特徴は
- 軽い
- 多孔質のため水分や肥料分をよく保持できる
- 無機質なので無菌状態が期待できる
一体、何なのかというとヒル石と呼ばれる鉱物を焼結膨張させたものです。
ヒル石は、化学的な組成は難しいのですが、簡単に考えれば土の中の粘土が地中深くで高圧で圧縮されてできた層状の構造を持ったものと考えればいいでしょう。主に鉄、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素の酸化物と水酸化物が複雑に組み合わさった鉱物です。
ポイントは「層状」であることと「水和水」を持っていることです。水和水というのは結晶中に含まれる水分のことです。つまり薄く層状に重なっている鉱物の間に水がはさまれていると考えてもらえればいいと思います。
そこでこのヒル石を800℃ほどで加熱すると、はさまれていた水や水酸化物イオンが水蒸気になって膨張するため、層と層の間が広がってヒル石自体が10倍ほどに膨らむのです。この様子が環形動物のヒルの動きに似ているので、ヒル石と呼ばれるわけです。
その結果、隙間が大きく多孔質のバーミキュライトになるわけです。
ただし、ある産地のバーミキュライトの一部にアスベストが含まれていたという報告もありますので、気になる方は留意しておいて下さい。職業柄、アスベスト問題に無頓着な星野であります。
・ミズゴケ
乾燥ミズゴケ |
これまた園芸用に使われる素材です。
生物学的にはミズゴケ科ミズゴケ属Sphagnum の総称ですが、どうやら日本で園芸用に使われるのはオオミズゴケSphagnum squarrosum と呼ばれる種類のようです。
そもそもコケ類は高等植物のように葉の表面に乾燥から身を守るクチクラ層が発達していません。そのためにいつでも水分を吸収できるような工夫が体の構造の特徴となっています。特にミズゴケは、葉緑体を持たない透明細胞という大型の細胞が発達していて、この表面に水分を吸収するための細孔が数多く存在し、そこに水分を大量に維持できる仕組みになっています。そのため、ミズゴケ類は最大で乾燥重量の20倍の水分を保持できるようです。
園芸用に販売されているのは乾燥ミズゴケですが、主にニュージーランド、中国、カナダなどから輸入されています。よく言われる「ミズゴケは漂白や消毒剤にまみれている」というのがあります。おそらく漂白はされていないと思われますが、植物を輸入するわけですから、もちろん害虫対策に消毒はされています。ですから、使用前にはよく洗う方がいいでしょう。
・ピートモス
湿地で、さまざまな植物が堆積して腐食してできた泥炭から繊維質を選別した素材です。
特徴として
- 軽量
- 通気性がある
- 保湿性がある
植物が腐食した時に生成するフミン酸(腐植酸)が多く含まれているために、酸性を示すことも特徴です。また乾燥したものに水を吸水させるのが結構やっかいです。
・パーライト
パーライト |
元になる岩石はいろいろですが、真珠石の直訳通り白くて軽い石です。
流紋岩や黒曜石などを1000℃程度で加熱すると、中に含まれていた結晶水が蒸発して発砲させ、多孔質の素材になります。販売されているものを見ると不規則な形状のものと、球形のものが売られていて、元の岩石の違いによるものと思われます。多孔質であるためと鉱物由来であることから、バーミキュライトと同じように保湿と無菌状態を期待できる素材として、最近は孵卵に使用する場合が多く見られるようになってきました。
・海の砂
私は、その辺の砂浜からちょっとだけ持ってきてよく使います。ただし、保湿性はありませんので、主に硬い卵殻のカメとヤモリ科の卵に使います。で、何のためかというと卵が転がらないようにするための「保定」用ですから、今回の趣旨からは外れていますね。
バーミキュライト、ミズゴケなど各素材の長所・短所
さて、ではそれぞれの素材の長所と短所をちょっとまとめておきましょう。・バーミキュライト
<長所>
- 保湿性が高い
- 通気性が高い
- 無機質なので無菌が期待できる
- 見た目で乾燥しているのかどうかがわかりにくい
- 自然に存在しているわけでないので、本来の爬虫類が利用しているはずがない、という何となく感じる不自然さ
・ミズゴケ
<長所>
- 保湿性が高い
- 通気性が非常に高い
- 乾燥したら見てわかる
- 自然に存在しているわけで、何となく爬虫類も喜んで選んでくれそう
- カビやすい
- 途中の給水がしにくい
また「途中の給水がしにくい」というのは、私の感覚的なもので、他の床材なら水を端の方にそーっと注げばいいのですが、ミズゴケは隙間だらけなので、どれくらい水を注げばいいのかわかりにくいのです。気づいてみたら給水のしすぎでミズゴケがぐっしょりになっていたりとか。
・ピートモス
ピートモス |
<長所>
- 乾燥したら見てわかる
- 卵を傷つけない
- 爬虫類が自然に産卵している場所にもっとも環境が近そうな気がする
- 保湿性と通気性が低い
- 卵が着色してしまう
・パーライト
<長所>
- 保湿性が高い
- 通気性が高い
- 無機質なので無菌が期待できる
- 見た目で乾燥しているのかどうかがわかりにくい
- やや硬いので、角で卵を傷つけるおそれがある
- 自然に存在しているわけでないので、本来の爬虫類が利用しているはずがない、という何となく感じる不自然さ
卵に傷つけるというのは、そんなおそれがあるというだけで、実際には卵はそんなヤワじゃありませんが。
以上のように、ピートモス以外はどれもムリヤリ欠点を見つけたような感じですが、これらを補い合うように、ブレンドして使っている人が多いようです。
大切な大切な卵なので、いろいろと「試す」というわけにはいきませんが、もっとも適した床材を使って、少しでも多くのベビーと会えるようになりたいですね。
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