東京の神社仏閣謎巡り　新宿大閻魔編(3ページ目)

宿場には遊郭と神社仏閣がつきもの

そうした区ごとの博物館では、区内の代表的な史跡を「分館」とか「ミニ博物館」などと名付けて、文化財を展示していることが多いです。新宿区にも、それはいくつかありますが、その代表的なものが、新宿二丁目にある太宗寺です。

今の新宿二丁目はゲイタウンとして名高いところですが、江戸時代には、遊郭街でした。江戸には、内藤新宿を含めて四つの宿場があり（品川宿、千住宿、板橋宿）、人の集るところに、そっち方面の娯楽施設は必須ということで、そのどれもに遊郭街ができ、旅よりそれが目的という、本末転倒な江戸の紳士も多かったと聞きます。明治以降も、新宿の遊郭街は「赤線」という名で存続しましたが、売春禁止法の発令によって消え、いつしか、美しいおにいさまたちが愛の出会いをする場所に変貌しました。

遊郭と並ぶ宿場に必須の施設は、もちろん神社仏閣です。江戸時代の人々の人生は、現代人のそれよりも、はるかに先の見えないもので、旅の途中で行き倒れて死んでしまうことも少なくありませんでした。そのため、保険をかけるかのように、まずは神仏にお参りして守っていただこう、と思ったのでしょう。

巨大地蔵と巨大閻魔は同一人物

江戸の結界と見なされる場所には、このようなお地蔵さんがあります

内藤新宿近辺にも、いくつかの寺がありますが、太宗寺は、その中でももっとも格式の高い、内藤家の菩提寺です。今も太宗寺の敷地は広く、「繁華街の新宿に、にこんな大きな寺があったのか」と驚くのですが、入ってすぐのところに立っている、巨大お地蔵さんには、もっと驚きます。これは、江戸六地蔵と言って、結界を守るために、江戸の出入り口と見なされる場所にあった六つのお地蔵さんのひとつで、同じような形のお地蔵さんが、巣鴨の地蔵通りの入り口などにも残っています。

写真では大きさがわかりにくいのですが、座った形で、3メートルぐらいはあるでしょうか

さらなる驚きは、境内のお堂の中に、どえらい怖い顔をした閻魔さまが坐っておられることです。ご存知のように、閻魔さまは、生前その人物が犯した罪を計って、地獄行きか極楽行きかを決める役目を持っていますが、実は、お地蔵さんと同一人物です。優しいお地蔵さんと恐ろしい閻魔さまが同じものだなんて、これまた不思議。それには仏教の難しい話が関わっているのですが、少なくとも、江戸の庶民たちが、仏様のご利益さえも、自分たちの都合のよいように解釈していたことは確かなようです。

地獄にせよ極楽にせよ、まず、服を脱いでから、ことを行うものらしいですね

その怖い閻魔さまの隣には、もっと怖い顔をした、脱衣婆（だついば）と呼ばれるおばあさんの像があります。この人は、死んだ人の罪を計る前に、衣服を剥ぎ取って計りやすくする役目を持ち、閻魔さまの隣に必ずひかえているものですが、これもまあ、驚くべきことに、ここ、内藤新宿においては、「衣服を剥ぐ」という機能だけが一人歩きして、遊郭繁盛の守り神になってしまったのです。極楽でも地獄でもある遊郭にどんどんお客さんを呼び込んで、裸にひん剥いてやりましょう、という意味ですね。

かくも大胆な本末転倒を平気で行ってしまう、愛すべき江戸の庶民たち。こういう珍発見こそが、ご近所の神社仏閣に遊びに行く醍醐味と言えましょう。

＜DATA＞
■太宗寺
・所在地：東京都新宿区新宿2-9-2
・交通・アクセス：東京メトロ丸の内線「新宿御苑前」駅より徒歩１分
・地図：Yahoo!地図情報
・TEL:03-3356-7731

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