世界遺産/世界遺産豆知識

世界遺産豆知識1 複合遺産とその全リスト

2008年7月現在で世界遺産全878件のうち、文化遺産と自然遺産双方の価値を持つ「複合遺産」として登録されている物件は、わずかに25件しかない。今回は複合遺産の概要とその全リストを紹介しよう。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

世界遺産には3つの種類がある。建築物や遺跡など人類が造り出した「文化遺産」、大自然の景観や貴重な生態系などを有する「自然遺産」、そして文化遺産・自然遺産双方の価値を持つ「複合遺産」だ。

世界遺産には登録基準と呼ばれるものがあり、世界遺産に登録されるためには文化遺産の登録基準6項目、自然遺産の登録基準4項目のうち、少なくとも1項目を満たさなければならない。複合遺産とは、文化遺産・自然遺産の登録基準からそれぞれ1項目以上を満たした物件をいう。

2008年7月時点で世界遺産878件中、複合遺産はたった25件しか登録されていない。今回はこのすべての概要を紹介しよう。なお、以下では世界遺産名に次いで国名、登録年(拡大登録年)、登録基準の順に表記した。登録基準についてはいまさら聞けない世界遺産の基礎知識へ。

ヨーロッパの複合遺産

カッパドキア
カッパドキアの奇岩。かつてはこの岩の下に妖精が住んでいると言われていた。©牧哲雄

■セント・キルダ
イギリス、1986年、2004年、2005年、文化遺産(iii)(v)、自然遺産(vii)(ix)(x)
スコットランド沖にある「世界の果て」と言われる島。6,000万年前に隆起した島で、400mを超える鋭い断崖絶壁はヨーロッパ一の規模を誇り、その断崖絶壁に守られて、数多くの海鳥が暮している。また、島には2,000年前からの人類の遺跡が残されており、厳しい環境の中での自給自足の生活が20世紀まで守り継がれてきた。現在は無人島で、上陸が厳しく制限されている。

■アトス山
ギリシア、1988年、文化遺産(i)(ii)(iv)(v)(vi)、自然遺産(vii)
東方正教会の聖山アトスは、現在も一般の観光客の入山が厳しく制限されており、女人禁制で男性も入山許可証が必要だ。内部は自治によってまかなわれ、修道士たちによって中世から変わらぬ生活が保たれている。半島のような形でギリシア本土とつながっているが、険しい断崖絶壁によって隔絶されており、それゆえその美しい自然は手つかずで残されている。

メテオラ
中央にたたずむのがメテオラのルサヌウ修道院。周囲の壁の下は即、断崖絶壁。
■メテオラ
ギリシア、1988年、文化遺産(i)(ii)(iv)(v)、自然遺産(vii)
大地から突き出した最大400mにも及ぶ奇岩群。下から眺めるとまったく見えないのだが、その頂には天空に浮かぶ不思議な修道院が立ち並んでいる。6,000万年の歳月が造り出した不思議な自然景観に修道士たちは神を見て、9世紀からこの地で修行を積んでいた。14世紀には修道院が建てられて、現在も6つの修道院が活動を続けている。
奇岩群にたたずむ天空の修道院 メテオラ

■ラポニアン・エリア
スウェーデン、1996年、文化遺産(iii)(v)、自然遺産(vii)(viii)(ix)
サーメ(ラップ)人地域とも呼ばれる世界遺産で、トナカイと共にサーメ人たちが5,000年も前から伝わる狩猟・遊牧生活を続けている。土地は北極圏のラップ・ランドの一部となっており、氷河や永久凍土、ツンドラ、フィヨルドが、トナカイはもちろんイヌワシやヘラジカをはじめとする寒冷地特有の動植物を育み、特有の生態系を築いている。

■ピレネー山脈-ペルデュ山
スペイン・フランス共通、1997年、1999年、文化遺産(iii)(iv)(v)、自然遺産(vii)(viii)
スペインとフランス国境にまたがるピレネー山脈のペルデュ山頂付近は広大な森林地帯が広がっており、美しい渓谷や草原、氷河の浸食による断崖や洞穴が連なり、エーデルワイスやスペインアイベックス、ライチョウなど独特な生態系が維持されている。また、山の高低を活かした伝統的な牧羊生活がいまなお伝えられており、それゆえ文化遺産としても登録されている。

■イビサ、生物多様性と文化
スペイン、1999年、文化遺産(ii)(iii)(iv)、自然遺産(ix)(x)
地中海に浮かぶ不思議な島、イビサ。ヒッピーの聖地として最先端のクラブ文化を発信する島であり、同時に古代から地中海の覇権を争って様々な民族がこの島を侵略した痕跡を残す城壁や遺跡が多数残され、さらに海中ではポシドニアの深い森林がどこまでも広がって様々な動植物が繁殖する、世界的に例のない摩訶不思議な空気を醸し出している。

■ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩窟群
トルコ、1985年、文化遺産(i)(iii)(v)、自然遺産(vii)
数千万年の年月が造り出した煙突型の奇岩群がどこまでも連なるカッパドキア。妖精が住んでいたと言われても納得できるほどの異様な光景がそこかしこに広がっている。ローマ帝国やイスラム帝国の迫害から逃れたキリスト教徒たちはこの神秘の土地に集まり、奇岩をくりぬいて教会や住居とし、さらに地下100mを超えるアリの巣状の地下都市を造って修行に励んだ。
妖精の街で眠りたい! カッパドキア

パムッカレ
パムッカレの石灰棚。かつてはここで泳げたが、現在は遊泳禁止。©牧哲雄
■ヒエラポリス-パムッカレ
トルコ、1988年、文化遺産(iii)(iv)、自然遺産(vii)
断崖に連なるまっ白な石灰棚と、滝のように連なる石柱、その上をやさしく流れる温泉。温泉の効能は古代から知られており、紀元前からこの神秘的な温泉は保養地として注目されてきた。ヒエラポリスにはローマ帝国ハドリアヌス帝の円形劇場などが残されているが、ローマ時代、この地には浴場はもちろん劇場や住居、神殿、墓地まで造られて、温泉都市として繁栄した。
綿の城パムッカレで足浴と古代都市に浸る

■オフリド地域の文化的・歴史的景観とその自然環境
マケドニア、1979年、1980年、文化遺産(i)(iii)(iv)、自然遺産(vii)
ヨーロッパ最古の湖と言われており、およそ400万~500万年前にできたと見積もられている。水深もヨーロッパ有数で最深部は288mもの深さになり、古代の生態系を維持する貴重な自然が保たれている。オフリド湖畔には紀元前3世紀前後から人が住みはじめ、9世紀前後からは正教会の修道院が数多く建築され、10世紀にはブルガリアの首都となり、19世紀までスラブ系正教会の要衝として繁栄した。

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