愛をもって世界をせせら笑う
PiafとCerdanのラブレターを集めた書簡集 |
日本人が抱くPiafに対するイメージは、どうやら越路吹雪→「愛の賛歌」→結婚式ソングという図式が一般的なようですが、フランス語版のHymne à l'amour(イム ア ラムール/愛の賛歌)の歌詞をひも解いてみると、「そこまで愛に溺れるのはちょっと……。」と結婚式で熱唱してしまうのを躊躇してしまうかもしれません。
プロボクサーMarcel Cerdan(マルセル セダン)との道ならぬ恋と、彼の飛行機墜落死エピソードもからんで世界中で今でも愛され続けているこの名曲の中で、Piafは命じられるなら、盗みもするし、国も捨てると宣言します。
愛以外のことはPeu m'importe(私にとって重要ではない)、se fourtre de ~(~を問題としない)というフランス語の表現をもって、次々と否定。その極端さは、まさに既存の社会的常識に対する「反逆精神」のかたまりといった感じです。
「愛」との共犯関係によってつむぎだされるアート
様々な顔をもつPiafの原点はストリート |
翌日に戦地に赴く『L'Accordeoniste(アコーデオンひき)』とfille de joie(ストリート ガール)の恋。妻に逃げられガス自殺をはかる『Monsieur Lenoble』(ムッシュ ルノーブル)。
『La Fête continue 』(祭りは続く)で描かれるのは、一人息子に全財産を持ち逃げされてしまったveuve(寡婦)や、零点をもらったpetit garçon(少年)とまさに『ゴリオ爺さん』並みの悲惨な人間模様。彼女はPeu m'importe(関係ない)と眼をそむけつつも、『La vie en rose』(バラ色の人生)と対極にあるそんな世界を唱い続けるのです。
今でも世界中から多くのファンが訪れるPiafの墓 |
「愛、愛、愛!」それ以外は関係ない!悲惨な世界の目撃者でありながらも、眼を閉じて自らの愛に身をゆだねる。「愛」に対するこの問答無用の身勝手さは、実は人間全体の素直な欲望と弱さでもあり、その偽善的でない思いのはかりしれない力強さと極端さゆえにPiafは今も愛され輝き続けているのかもしれません。
「PIAF est une étoile qui se dévore dans la solitude nocturne du ciel de France.」Jean Cocteau
(ピアフはフランスの夜空の孤独の中で自らを焼き尽くす一つの星である。)
ジャン コクトー
【引用サイト】