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アントワネットが『下妻』に嫉妬するワケ(2ページ目)

革命記念日の嫌われ王妃マリー・アントワネット。そんな王妃が嫉妬する?日本のお姫様文化の変遷を「ベルばら」、「下妻物語」、「ロリィタ」をキーワードに分析いたしましょう。

越智 三起子

執筆者:越智 三起子

フランス語ガイド

日本女性はAntoinetteがお好き!!

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『ベルサイユのばら』のOscarとAntoinette
庶民の困窮に目も向けず、派手好き、わがまま、ギャンブル三昧。全世界において嫌われ王妃のベスト3に入るようなAntoinetteですが、池田理代子作『ベルサイユのばら』と宝塚人気、さらにはギロチンによる悲劇的な最後というエピソードも手伝ってか日本での評価は意外とポジティヴ。

この通称『ベルばら』のTVアニメ版は、フランスでは『Lady Oscar』と名を変えて、1986年に放送開始。以来、数々の再放送を経て今に至ります。本国フランスでは、なんといっても男装の麗人Oscar François de Jarjayes(オスカル・フランソワ・ドゥ・ジャルジェ)と彼女を慕う幼ななじみのAndré Grandier(アンドレ・グランディエ)が人気で、Autriche(オートリッシュ/オーストリア)からやってきてFranceの財政を食いつぶすようなAntoinetteが人気を博すことはないもよう。

一方日本では、漫画を読んだことがない人たちでも、『ベルばら』と聞いて思い浮かべるのは、OscarとAntoinetteの画像であり、その可憐なAntoinette像はひそかな少女の憧れでもあります。少し古い記事になりますが、『Marie-Antoinette fait se pâmer les Japonaises(日本女性をうっとりさせるマリーアントワネット』と題されたAFP通信の記事から、日本人のいくつかの声をご紹介いたしましょう。

  • 24歳 女性:「Bien sûr, ses dépenses d'habillement et de bijoux sont allées un peu loin, mais sa triste fin me touche beaucoup.」
    (もちろん、彼女の宝石やドレスに対する浪費は行き過ぎだとは思います。でも、彼女の哀しい最後には強く心をうたれるものがあるのです。)


  • 46歳 女性:「Elle est simplement née au mauvais moment. L'histoire aurait pu finir autrement. Mais le fait qu'elle ait gardé sa dignité de reine jusqu'au bout me remplit d'énergie.」
    (彼女は生まれた時代が悪かったんです。もし違っていたら、歴史もまた違う風になっていたはず。でも彼女が最後の時まで持ち続けていた王妃の威厳を思うと、力がわいてくるのです。)


  • 男性:「Les Japonais aiment les aspects brillants et riches de la culture française, comme la cuisine ou les films. Et l'image de Marie-Antoinette en fait partie.」
    (日本人は、料理や映画といったフランス文化の豊かで華麗な側面が好きなんです。マリー・アントワネットもその一部。)

  • 女の子の永遠のあこがれ!お姫様ファッション

    princess
    お姫様好きにはたまらない一冊!姫のカリスマ高橋真琴が描く『MACOTOのおひめさま』
    さて、先ほどの記事によると、Marie-Antoinetteは、退屈な夫をもちながら報われない恋愛に身をこがす「une sorte d'incarnation des vertus et des épreuves de la Femme nippone(日本女性の苦難と美徳を体現する)」存在らしいのですが、この「耐え忍ぶ女=日本女性」という海外におけるイメージの是非はさておき、ぜひとも付け加えておきたいのは、日本におけるAntoinetteのイメージと「お姫様」を愛する女心の親密な関係です。

    日本人女性が思い描く「お姫様」といえば、原点は100%フランス人形。どんなに小さな女の子に絵を書かせても、そこには必ずリボンとドレスとシンデレラの靴が登場します。いわば、すべてが池田理代子のMarie-Antoinette風。ガイドが小さい頃は、フランス人女性はみんなドレスを着てお城に住んでいるとお馬鹿なことを信じておりましたが、そこまでいかないにしても、「お姫様」→「フリフリドレス」→「フランス」の図式は未だに崩れていない気はします。

    そして、実在したフランスの「お姫様」といえば、なにはともあれAntoinette。おそらく普通に生活している人ならば、この名前以外思い付くことはないでしょう。そういう意味で、Antoinetteはいわば「シンデレラ」、「白雪姫」というプリンセスたちと同義語。「わがままで浪費癖のある最低の王妃Antoinette」というフランスでの否定的な評価を左脳で処理しつつも、日本女性の右脳では、センスがよくて美しい「お姫様」のシンボルAntoinetteを肯定的に受け入れる下地が整っているのではないでしょうか。

    そして、この「お姫様」文化は21世紀の日本において更なる進化をとげます。

    次ページは、『下妻物語』とロリィタのお話です。
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