幻の蕎麦のもとは火縄銃?

つやつやで色は淡いが蕎麦の香りとコシが強い富倉蕎麦。量はおばちゃんの気分次第・・・・か。
「はいよー」といっておばちゃんが抱えてきたのが直径30センチはある大きなざる。そこに山盛りの蕎麦がのっていた。
「えーと、並と大盛りでこの量なんですか」とのけぞる私に、「今日はもう最後だし、それにあんた、並じゃ足りんでしょ」。まあ、確かに午後3時頃だし、私は見るからに食べそうだし・・・・。しかし、普通の蕎麦屋の4人前は軽くあった。
これが幻の富倉蕎麦か、と蕎麦をよく見る。少し青みがかった色合いで驚くほどに艶やかだ。
細打ちの蕎麦をたぐる。
ぼそりという食感がなく、つるつるでコシがしっかり。喉ごしのよさがなんともいえない。飲み込むと、鼻に蕎麦の香りがぬけていゆく。田舎蕎麦を想像していたが、思った以上に上品な味わいだ。

おばちゃんお手製の笹ずしも旨い。日持ちがするのでお土産にいい。
この蕎麦、地粉にヤマゴボウの繊維をつなぎにして打つ。ヤマゴボウとは山菜のことなのだが、1種類ではなく、いくつか似た山菜の総称なのだという。はしば食堂で使っているのは雄山火口(オヤマボクチ)という山菜から取れる繊維。「これをつなぎにして蕎麦を打つと、下に敷いた新聞が読めるほど、薄く打てるんだ」とおばちゃん。白い綿のような繊維を触ると非常に細かく、そして強い。
あのつるつる感とコシはこの繊維のおかげなのだ。

が、「これはもともと、火縄銃の付け火に使ったんだ」とおばちゃん。
上杉謙信が富倉の峠を越えて川中島へ向かう途中、火縄銃の火種としたのがオヤマボクチなのだという。
昔はマッチもライターもないから、火打ち石で熾した火をまずは綿などの繊維の中に入れて火を大きくし、そこに火縄を入れて火を付けたのだという。
軍事用品だったオヤマボクチを蕎麦のつなぎにしようと考えたのは、山深く、物資も多くない富倉の人々の知恵だったのかもしれない。おかげで蕎麦粉の風味を失わぬまま、食感のいいこの蕎麦が生まれたのだろう。

そんなことを考えつつ、いつの間にか大盛りの蕎麦は消え去っていたのだった。同行者もかなりの食いしんぼだったのだが・・・。

この3週間後、私はまた、はしば食堂の居間にいた。
どうしてもあの味が忘れられず、10月下旬の新蕎麦を狙って、車を走らせていたのだった。
「あらまた、来た~」。おばちゃんは今度もやっぱり愛想はなかったが、くりくりとした目は笑っていた。




【はしば食堂】
■住所:長野県飯山市富倉滝ノ脇3206
■電話:0269-67-2340
■アクセス : 上信越道豊田飯山ICよりR117、R292経由、飯山方面へ40分。JR飯山駅よりタクシー20分
■営業時間 : 特に決まっていない(お客さんがいる間)
■休業日 : 年中無休
■料金 : そば並800円、笹ずし600円
■駐車場 : あり(無料)8台
Yahoo!地図情報


【関連リンク】
【信州】名作でめぐる秋の棚田と幻の蕎麦 飯山の癒し風景はこちらの記事で。
お薦めの信州のそば処 幻の富倉そば All About 信州ガイドの富倉蕎麦情報。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。