北信州、飯山に伝わる山里料理

はしば食堂。すぐ隣の斜面がおばちゃんの畑。
飯山市の観光協会の方にお会いしたとき、「ぜひ食べていってほしい」とすすめられた蕎麦がある。
世間では「幻の蕎麦」といわれている富倉蕎麦がそれだ。飯山市の中でも最奥、飯山駅前から曲がりくねって、どんどん細くなる飯山街道(国道292号線)を走ること20分、峠を越えればすぐに新潟県というあたり。ふいに左側に「富倉蕎麦」という小さな看板が見えてくる。ぼんやりしていると見過ごしてしまいそうな小さな看板だ。急な細い坂道をのぼるとそこが富倉の集落。国道沿いにも富倉蕎麦を食べさせる店はあるのだが、この集落の中の店がおすすめなのだという。

「そば」というのぼりが立つ民家が2軒。「とみくら食堂」と「はしば食堂」だ。観光協会の人がはしば食堂のおばちゃんのキャラがいいといっていたので、はしば食堂へ向かう。
入口は民家の玄関だ。大きな貯蔵用の冷凍庫が廊下に並び、その奥の居間に通される。10月の半ば過ぎ、すでに石油ストーブが焚かれ、ストーブの上には大きな鍋が煮えていた。

「おかず」(1テーブル200円)は毎日メニューが変わる。煮豆や漬物もおいしい。スローフードというよりまさに田舎のおかずだ。
「何にしますか」とぞんざいに聞くおばちゃんは、目がぎょろりと大きく、愛想はない。ははあ、これが噂に聞くおばちゃんか、と納得。
ざるそばとその大盛り、それに郷土料理の笹寿司しか、メニューはない。並と大盛りを1つずつ頼むと、「はい、おかずね」と小皿に5品ほど、山菜やキノコ、野菜の煮物、漬物が出てくる。野菜といってもキヌカツギの茎を煮たもの、大根葉の油炒めなど、野菜のありとあらゆる部分を余すところなく使った料理だ。今風にいえばまさにスローフード。
塩分はけして高くなく、手間と時間をかけてこっくりとした味付けになっている。祖母が作る煮物の味を思い出した。
これは突き出しのようなもので1テーブル200円という安さ。
蕎麦が出てくるまで、古いモノクロの遺影の掛かった鴨居や、某有名俳優がサインしていった襖など眺めつつ、アルマナイトの急須に入ったほうじ茶を飲みながら、このおかずをつまむことになる。

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