ビジネスの場で、宗教、人種、政治、そして野球チームの話しは、タブーとされています。それは、欧米でも同じで、とりわけ初対面の場合には意見の対立を解消することができない話題は、極力取り上げない方が無難です。

しかし国際ビジネスの場面では、時に宗教が取り上げられる場面があります。ではそんなときにはどのように対処したらよいのでしょうか?

「あなたの宗教は何ですか?」と聞かれたら

海外でのビジネスで知り合った方から、"What's your religion/denomination?"と聞かれる場合があります。ビジネスで少しお付き合いが進んで、例えばホームパーティなどに招待される前などに聞かれることがあります。これは、どういうことかと言うと、食事の問題(食べられないものがあるかどうか)について知りたいと考えているケースです。

ご存知のように宗教によっては、戒律で食べてはいけないものが決められています。例えば、よく知られているところでは、イスラム教徒の場合は、豚肉や血を食べること、お酒、客人に熱い飲み物を出すことが禁じられています。また、ヒンズー教徒の場合も、牛肉や卵を食べることが禁じられています。

ユダヤ教徒の場合には、旧約聖書(レビ記11章)によって鱗とひれのある魚以外(例えば、タコや、うなぎ、あなご、イカ、エビ、貝類など)は食べてはならず、豚・馬の肉も禁止されています。

またキリスト教でも一部の宗派によっては、鯨の肉を食べなかったり、血を含んだソーセージやプディングを食べない場合があります。同じキリスト教でもカソリックとプロテスタント、さらに宗派によって教義や戒律が異なる場合があるので注意が必要です。カソリックでは、"No meat, only fish on Friday"だったりします。

かつて、インドネシアで日本の調味料メーカーが豚肉の成分が混入していたという理由で従業員の逮捕と大規模な不買運動に発展したケースがありました。このように、宗教による食事の問題は私たちが普段考える好き嫌いの問題より、遥かにデリケートで重要な問題なのです。

ですから、招待される立場だけでなく、招待する場合にも、相手の宗教・宗派について、予め知っておくことは、国際ビジネスでは相手を本当の意味で理解する点で疎かにできないところなのです。うっかり、イスラム教を信じている方を招待して、「豚しゃぶ」や「ポークカツレツ」などを出してしまうと、逆に人間関係を損なう結果になりかねません。こちらに悪気がなく、誠意を持って接待したつもりでも、戒律に反する食事の提供は、誤解を招くもととなってしまいがちです。

「あなたの宗教は何ですか?」のもう一つの答え

とりわけ、私たち日本人は、古来より宗教には、一時期(キリシタン禁制)を除き、寛容な文化を持っていたせいか、ついついこの問題を気にかけずに対応しがちです。とりわけ戦後は、日本人全体の「無宗教色」が強まり、お盆のお墓参りか、お正月の初詣の他は、ほとんど宗教的な儀式に関わることがなくなってしまいました。

そのためか、海外で、先の質問「あなたの宗教は何ですか?」と聞かれると、よく、"I have no religion."と答えるケースがしばしば見受けられます。しかし、これは「要注意」です!

なぜなら、"No religion."ということは、すなわち「信仰心」がない、というメッセージとして伝わる場合があるからです。特定の宗教・宗派に属していることのほうが、一般的な日本人には分かりづらいのですが、特定の宗教・宗派に属している人から見れば、それは「『異なる宗教を持っている人』=『異教徒』よりも信用できない」という印象に繋がりかねないからです。

宗教に対する理解を深めよう!

宗教の話題
国際ビジネスに宗教の知識は不可欠! 「宗教がない」ということは、時として"I am an anarchist.(無政府主義者)と言っているに等しいと受け取られる場合があります。
もし年に一回、お盆の時期にお墓参りをするなら、"I'm a Buddhist.” とか、もしくは年に一回初詣に出かけているならば、それだけを以って、"I'm a Shintoist."と答えておくほうが、無難であるかもしれません。

「宗教心がある」=「自分よりも高位の存在に畏敬の念を捧げる同じ心を持った人」だと感じてもらえることに繋がります。

自分の宗教を述べた後で、お盆には仏教、年末にはクリスマス、お正月には神道でお祝いするという習慣。そして、日本では宗教での対立や戦争がほとんどない日本の宗教風土について、下記のように伝えると、それはそれでたくさん質問されたり、面白い議論に発展することが考えられます。

"I am Buddist, but I'm not actively practicing" または"Japan has a mixture of religions. I practice aspects of both Buddist and Shinto faiths."

日本以外の世界では、同時に2つの宗教を信じるということはにわかには信じ難いものだからです。

宗教心を持たないことは、日本では、先進的で洗練された考え方のように受け取られがちですが、世界のほとんどの国々では特定の宗教に属していることの方が、自然で当たり前のことだということを認識しておきましょう。この認識をもっておくことは、様々な人たちと出会う国際ビジネスの場面では、友好的な人間関係を築きあげるうえで、大いに役に立つはずです。

また、国際ビジネスパーソンは、それぞれの異なる国の文化を理解して対応していかなければなりません。そのためにも、文化の根幹をなしている、宗教についての理解を深めることが大切になってくるといえます。

各宗教に関する大まかな知識を持っておくと、例え、その宗教・宗派を信じていなくても、相手により深い理解と敬意を表すことができ、それによって相手からの尊敬をさえ勝ち得ることにも繋がります。単に英語をしゃべれるだけではなく、宗教に関する理解と知識も、円滑な人間関係を築くうえで必須の教養となるでしょう。国際相互理解の点でも、宗教への理解と知識は欠かすことの出来ないものなのです。



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