韓国社会を考える。高度成長、女性、社会問題
作家、コン・ジヨンさんが死刑囚を訪問しながら書きつづった『私たちの幸福な時間』。こちらも翻訳は蓮池薫さん(クリックするとアマゾンのHPにとびます) |
この作品は、死刑囚の男性と、自殺未遂常連者の女性が心を通わせる物語です。死刑囚の……となると、とてつもなく暗く重い話に思えるかもしれません。もちろん、やりきれない部分はとても多くあるにしても、世の中から裏切られ続けた二人が最後に心から救われていく様子は、とても美しいです。小説の最後、私は電車の中で読んでいたのですが、号泣の一歩手前!涙が溢れてきてしかたがありませんでした。必死で喉がひくひくするのをこらえましたっけ。
最後の作者の後書きは、「私もこの小説を書く間、とても幸せな時間を過ごした」という出だしで始まります。作者のコン・ジヨンさんがこの小説を書くことになったきっかけ、そしてどのようにして書き進めていったかの実話が具体的に紹介されていて、心を打ちます。
そして、このコン・ジヨン(孔枝泳)さんの代表作の一つ、『サイの角のように1人で行け』(新幹社、コン・ジヨン著、石坂浩一訳、原題は『무소의 뿔처럼 혼자서 가라』(ムソエ プル チョロム ホンジャソ カラ))もお薦めです。一人の男性を好きになる女子大生3人。3人は大の仲良し。3人は青春時代の恋愛に傷つきながらも、成長し、それぞれ違う人と結婚していきます。しかし、その結婚はどれも幸せなものではありませんでした。一人は息子を亡くし、一人は夫の浮気に耐え、一人は精神を病んでいきます。
1990年初頭、韓国でフェミニズム文学が栄えた時期の代表作でもあるこの作品。男性優位の韓国社会を見せつけられる内容でもありますが、韓国女性の苦悩をつづったこの作品は多くの女性の指示を得、映画化もされました。韓国の女性が昔からどのように過ごしてきたのかがよく分かります。
実力派、シン・ギョンスクの作品も見逃せない。写真は代表作の『離れ部屋』(クリックするとアマゾンのHPにとびます) |
これは、イメージとしては、日本の『ああ、野麦峠』の韓国版、そして舞台を都会のソウルに移したもの、と言えるかもしれません。
この小説には1970年代に、韓国の高度成長期を支え、酷使され続けた若い労働者達の姿が、ありありと写し出されています。これがこの発展した大都市ソウルの数十年前の姿かと思うと、信じられない思いがします。彼らの生活の話だけでなく、パク・チョンヒ大統領の独裁の時代、光州事件の生々しい話が、当時の生活者の視点から書かれ、いかに私が「知識」としてしかこれらのことを知らないのか、ということを思い知らされました。当時の韓国のことがよく分かる、名作の一つといえましょう。
韓国人なら誰でも知っているイ・ムンヨルの『われらの歪んだ英雄』(クリックするとアマゾンのHPにとびます) |
舞台は韓国の地方都市、江陵(강능/カンヌン)のとある小学校。小学校で絶対的権力を保持し、周囲を震え上がらせるソクテ。しかし、新任教師がソクテの不正を暴いていき、ソクテの権力は失墜します。
絶対的権力者の失墜に小気味よい感覚を覚えながらも、どこかで寂寥感を覚えさせる心の矛盾に、小説の登場人物だけでなく、読者も気づかされるでしょう。
小説では子供達の権力闘争が描かれますが、これは韓国の軍事政権の真っ只中の暗い時代を暗示しています。また、作者のイ・ムンヨル(李文烈)は、1980年代の韓国を代表する作家で、『われらの歪んだ英雄』意外にも、日本語で読める小説がいくつかあります。韓国人は必ずと言って良いほど知っている有名な作家ですので、知っておいて損はないと思いますよ。
今回は、日本語で読める韓国の人気小説をいくつかご紹介いたしました。映像でなく文章で味わう韓国も独特の深い味わいがあります。是非、韓国の小説をお手にとってみてください。そして、読書好きで且つ韓国語を極めたい方は、これらの小説を原書で読む、という夢も持たれたらいかがでしょう。「韓国の小説」……いろんな楽しみ方ができそうですね!
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