シングルズ・バー
微笑む女 |
とはいえ、仕事のことは別だ。妻に話しても解決するわけではないのだ。もちろん、酒を飲んだからといって問題がなくなるわけでもないが、酔ってしまったときの感覚に今はおぼれているのかもしれなかった。痺れているというか、何か気持ちが大きくなって、もうどうでもいいという気分になる。何から逃避したいのか分からないまま、逃げたいという気持ちで酒のグラスを重ねるのだった。
ふと気がつくと、隣に褐色の肌色の若い女性がいた。こちらに向かって笑顔で白い歯を見せた。外国人はフレンドリーだ。このあたりの場所ならではかもしれないが、今は東京にはどこにでも外国人はあふれている。旅行者なのか居住者なのか分からないが、一緒に飲むのは歓迎だ。この店はいわゆるシングルズ・バーのようなものだろう。映画『ミスターグッドバーを探して』を一瞬思い出した。まあ、あの結末はいただけないが、男女の出会いの場としてはお約束の部類だ。相手は日本人の女であってもかまわないが、外国人なら英会話だろう。
「ハ~イ」
「ハーイ」
気軽な挨拶を交わすと、女は当たり前のように隣のスツールに腰を下ろした。裕二は力をつけた英会話を試すいい機会だと思った。
「え~と、Where are you from?」
「I'm from ×××××」
「ふ~ん。中南米。じゃあスペイン語か。でも、英語は話せるよな。Do you speak English?」
「Of course I do. Oh, your English is very good!」
「Oh, thank you,thank you」
たいしたことはしゃべってないのに英語がうまいと誉められて気分がよかった。何か飲むかと聞くと、ビールを飲みたいと言った。裕二はバーテンにビールを注文すると、英語で話し始めた。英語が母国語でない外国人とはむしろ互いに分かりやすい気がする。難しいことは話せないが、英単語を駆使して色々なことを話した。そのうち、女が「カラオケに行こう」と誘ってきた。
→超高級カラオケ