携帯電話の是非
「食事中はやめなさい」 |
「まったく行儀が悪いな。ママは怒らないのか」
「ママも持ってるから」
「まあ、便利は便利だもの。大人が使っているのに子どもにはダメというのも」
「昔は子どもだけでなく大人でも携帯電話なんか持ってなかった。今だって、子どもの生活に携帯電話が必要とは思えない。仕事をしてるわけじゃないんだし」
「でも、塾に通ってる子は多いから、帰りが遅くなると心配だからって持たせる家庭も多いでしょ。部活の連絡とかでも使うかもしれないし」
「連絡は家の電話を使えばいいんだ。外からはカードを持たせて公衆電話を使えばいい」
「最近、公衆電話は見つかりにくいわよ」
「だいたい、子ども同士でメールのやりとりなんてどうでもいいことばかりだろ。紗希ちゃんだってメールでたいしたことを書いてるわけじゃないだろう?」
目を見開いて麻季子と春彦の会話を聞いていた紗希が、突然話を振られて驚いたように息を飲み込んだ。
「うーん。まあね。でも、今はメールするのが当たり前だもん」
「依存症だね」
「なーに? イソンショウって?」
「イゾンショウとも言うが、何かに頼って生きることだ。それがないと生活が成り立たないことだね。アルコール依存症はお酒を飲まないとダメな人のこと。ケータイ依存症はケータイがないと生きていけない人のことだよ」
「ケータイがないと生きていけないかどうかなんて分かんない」
「まあまあ。ねえあなた、子どもの頃はどうでもいいことをやりとりするものよ。私だって紗希ちゃんくらいのときは、授業中にメモを回したりとかどうでもいいことでキャアキャア楽しんだりしていたもの。コミュニケーション不足よりはいいんじゃない?」
「しかし、メールをやり取りすることで時間も拘束されるし、返信をしなかったら嫌われるとか喧嘩になるとかおかしいだろ。一日にメールのやりとりに使われる時間を考えてみればエネルギーの無駄だね。そんなことより子どもは勉強すべきだ」
「分かった分かった」
麻季子がさらりとかわして話題を切り上げた。春彦の勢いに紗希は少々面食らっているようだった。食後の後片付けも紗希はちゃんと流しまで自分の食器を下げたので、綾子のしつけがちゃんと出来ていることは分かった。翔太が紗希とゲームをやろうと言ってリビングルームで遊びだした。キッチンで麻季子が洗い物をしていると春彦がやってきた。
「いやちょうど昨日、会社でも話していたんだけどさ、子どもに携帯を持たせる持たせないは親の頭痛のタネだね」
「もちろん、私も危ないことはあると思ってるわ。だけど、お義姉さんならちゃんと教えてるでしょう」
「食事中にメールをするなんてなってないよ。姉さんも行儀には人一倍うるさいはずだったんだが」
「紗希ちゃんも自分の家じゃないから気楽にやったのかもよ」
義姉のことを批判する夫に同調するわけにも行かないのが妻の立場というものである。
→p.3……・危険を教える
→→p.4……・写真を送る少女