防犯/防犯小説

女の事件白書~夏の夜の油断が招いた恐怖(2ページ目)

ある深夜、近所のコンビニに出かけた保奈美。店内と帰宅時に思いがけない恐怖を味わうことに。夏ならではの女の油断が招いた危険。防犯の教訓は。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

ガラスに映った男

深夜のコンビニで
深夜のコンビニで
ガラスに映った男と目が合った。男はニヤリと唇をゆがめた。店内には他にカップルと男性客が数人いるだけだ。皆、商品を選んでいたり雑誌に夢中になっていたりでこちらの様子を気にしている人はいない。店員はレジの中で何か作業をしている。人がいるのだから、何かをされるわけではないだろうが、真後ろに立っていた男にさすがに恐怖を覚えた。

アイスクリームを手にすると保奈美は急いでその場を離れた。レジの前を横切って奥のドリンクコーナーに行き、飲み物を何にしようかと見た。たまたまおまけの付いたドリンクがあり、かわいいので好きな色を選んで棚から取り出した。そしてレジに行こうと振り返ると、向こうの棚のかげに先ほどの男がサッと姿を隠したのが見えた。ムッとしたが、気にすまいと思いレジに向かう。

レジに行き会計を済ませて小さな袋を受け取ると、さりげなく男のほうを見た。男は違う方向を見ていたので、少しホッとしてそのまま店を出た。生暖かい外気に全身がじわりと弛むような感じだ。たった今、アイスクリーム売り場で怖いと思ったことを忘れようと弾むような足取りでマンションに向かって歩き出した。

角を曲がって少し暗い夜道をマンションに向かって歩くと、建物が見えてきて気分的に安心した。そのまま、オートロックの暗証番号を押して中に入る。後ろを見ることなしにエレベーターの前に行った。1階に止まっていたのでボタンを押して中に入った。自宅階のボタンを押してドアが閉まる寸前に、ドアに誰かの手が掛かった。

エッと思ったときには、先ほどの男がドアを押し開くようにして入ってきた。降りようにも男が入り口に立ちはだかっているので、出ることもできない。気ばかりがあせって動きがとまどっているうちに男が抱きついてきた。酒臭い息と自分を押しつぶしそうな男の体格に、パニックになった。もみ合っていると、イヤホンがはずれた。場違いな音楽が突然、その場に流れた。男が一瞬、力を緩めた。

保奈美はその瞬間を逃さず、エレベーターから飛び出した。一目散に道路に出ると、一度だけマンションを振り返ってから、先ほどのコンビニまで全速力で走った。店に駆け込むと、レジにいた店員が驚いたようにこちらを見たが、すぐに視線をはずした。保奈美は迷ったが、警察を呼ぶべきだと考え、店の前の明るい場所で携帯電話で110番通報をした。


→彼女の失敗
→→油断と反省/関連ガイド記事
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