深夜の外出

アイスクリームが食べたい…
アイスクリームが食べたい…
26歳の会社員・保奈美はエアコンが苦手だった。会社では節電対策で冷房の温度も高めの設定になっているはずだが、男性社員が多い部署で知らない間に温度が下げられており、女子社員たちはひざ掛けやカーディガンで自己防衛をしている。保奈美もカーディガンとひざ掛けを手放せない。

とはいえもちろん、暑さを感じないわけではないので、プライベートではタンクトップとショートパンツなどで気楽に過ごす。自宅は低層の建物が多い近隣の中では一番高い7階建てマンションで、4階の自室のベランダと出窓を開けておけば風通しもいいので、エアコンはほとんど必要がないのだ。

ある晩、ふとアイスクリームが食べたくなった。冷凍庫にはもう残っていない。深夜0時を少し回っていたが、最寄りのコンビニまで徒歩数分だ。食べたいと思ったらどうしても我慢できなくなり、ショートパンツをジーンズに履き替えて携帯電話と財布を手にした。(どうせ近くだから)と、タンクトップの上には何も羽織らずに部屋を出た。

1人で夜道を歩くときはいつも音楽プレーヤーを欠かさない。イヤホンをつけると好きなグループの音楽をかけ、軽快な気分でサンダルを突っ掛けてマンションを出た。マンションはオートロックだ。外に出ると、熱帯夜のせいか、湿度の高い暑さが身にまとわり付くようだった。街灯の少ない一方通行の道を曲がると、じきにコンビニが見えてきた。

夜道から店に入るとまぶしいくらいの明るさで、冷房も効いている。入った瞬間は(うわぉ、涼しい)と感じた。すぐに帰るつもりだったが、女性誌の発売日であることを思い出して、道路側の雑誌棚に向かった。すでに秋物のファッションも紹介されている女性誌をながめて、星占いのページに見入った。両耳には音楽が流れており、軽快なリズムに頭を軽く振っていた。ふと、何か視線を感じたような気がして何気なく横を見た。

すると、酔っ払った男が充血した目で保奈美を凝視しているのに気づいた。顔を横に向けたまま保奈美の頭のてっぺんから足先まで、舐めるように視線を這わす。あまりにも露骨な見方だった。舌なめずりをしそうな様子の男に、眉をひそめて逆に少しにらむように一瞥をくれると、見ていた雑誌を閉じて棚に戻した。

その場を離れてアイスクリームのケースのほうに移動した。ケースをのぞき込んで何にしようかと迷い、結局ひとつだけを選んだ。ケースを閉じて顔を上げて、ハッとした。ガラスに映った自分の姿のすぐ後ろに先ほどの男が立っていたのだった。

→ガラスに映った男
→→彼女の失敗
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