女と男の自己防衛
グラスを手に持ったまま少し考えていた様子の麻季子がグラスを置いた。「でもカメラもレコーダーもホントに考えると怖いわね」
「道具は使い方一つだからな」
「一歩間違えば、犯罪に使われるおそれもあるし。今回は身を守るために役立てたわけだけど」
「備えあればうれいなし。まさに今回はそれだよ。準備していなかったら、逃れることも難しかったかもしれない。痴漢だと騒がれたら、どうしようもないのと一緒だ。もちろん、オレも日頃から気をつけているよ。電車内では新聞や本を読んだりして、両手は絶対に上げている。痴漢だと騒がれたらたまらないからな。下手すりゃ人生終わりだし」
「会社内といえども男女2人だけでいるのも危険ね」
「まさにそうだよ~。録音していたからこそ、オレも強気に出られたんだよ。それにしてもあれだ。北村のところも、彼女のほうが尾行して写真を撮ることを提案したらしい。キミもICレコーダーを提案してくれただろ。女のほうが自己防衛に長けてるってことかね」
「無防備ではいられない、ってことよ。夫を守るのは妻として当然だもの」
「いや、今回は本当に助かったよ」
録音したものは聞きたくもないと麻季子は言った。もうトラブルは終ったのだ。そんなものを聞いても不快になるだけだ。春彦も危ういところだった記録など聞き返す気持ちはなかった。金曜日の夜に2人でワインを飲むのは久しぶりだった。春彦はすでに北村と詩織と3人で飲んでいたので下地が出来ていた。麻季子も追いつこうとばかりにピッチが早かった。
戸惑い? |
翌週の人事異動で辞令の内示があった。立川次長は支社への辞令が下った。妻が子どものことがあるからと地方で暮らすことに拒絶反応を示したらしく、単身赴任ということになるようだった。横井文恵は週明け早々に辞職願を出し、有給休暇の消化ということで、仕事の引継ぎを一日で終えて歓送会も辞退して会社から去っていった。その後、2人が別れたのかどうか、あるいは文恵が立川の転勤先までついていったのかどうか、誰も彼女のその後を知る者はいない。
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