破壊的行動
このままでは済まない? |
同期の同僚の光田茜に無理やり家に泊まってくれるように申し出た。茜はこの数ヶ月の由里の様子がおかしかったことに気づいていて、皆と居酒屋を出た後、2人で並んで歩いているときに、これまで心配していたと由里に告げた。 それほど親しくはなかったのに、茜が自分のことを気にしてくれていたのだと知って、由里は泣けてきそうだった。自宅への帰り道すがら、ポツリポツリと晃のことを話した。自宅の最寄り駅から徒歩で5~6分の距離だが、一駅手前で降りてタクシーに乗ることにした。
マンションの前でタクシーを降りる前に周囲を見回した。晃がいたらいやだと思ったのだ。誰の姿も見えなかったので、急いで建物の中に入り、エレベーターに乗った。内部には監視カメラが付いているので気分的に安心だった。3階でドアが開く瞬間は少し緊張した。だが、誰もいなかった。ボタンを押してエレベーターを1階に戻して、通路を曲がって一番奥の自宅に向かった。そして、由里と茜は同時に歩みを止めていた。
自宅の玄関ドアは何かで殴りつけたように何箇所もへこみ、傷ついていた。さらに何か塗料のようなもので黒く汚されていた。ドアノブも何かに打ち付けられたように傷が付いていた。晃に違いなかった。由里の不在中に家に来たのだ。だが、錠前が替えられていて、合鍵で開けることができなかったため、怒りで暴挙に出たのだろうと考えられた。
顔面蒼白になった由里を茜がささえた。茜も顔色を失っていた。思わず2人で通路を振り返ったが、誰の姿も見えなかった。とにかく家に入ろうと由里が鍵を取り出したが、震えてうまく開けられなかったので茜が代わりに鍵を開けて中に入るとすぐに鍵をかけてドアチェーンもかけた。お茶を入れ、やっと落ち着くと、茜が由里をじっと見つめた。
「多分これは『器物損壊罪』とかだと思う。でも、これだけで済むとも思えないんだけど」
「う…ん」
「今日は私が泊まるからいいとして、明日から問題じゃない? 何とかしないと」
「どうしよう。どうしたらいいの」
由里が絶望したようにそう言ってガックリとうなだれた。
恐怖に怯える |
茜がそう言ったとき、由里の携帯電話が鳴った。恐る恐るといった様子で携帯電話を手にした由里の顔が恐怖にゆがんでいた。晃からのメールだった。
「許さないぞ。別れるのも俺は納得しない。よくも鍵を替えたな。ドアだけで済むと思うなよ」
短いながら強烈な内容に由里はまた涙ぐんでいた。茜も眉をひそめて考え込んだ。そこへ、さらにまたメールが来た。