防犯/防犯小説

彼氏がストーカーに!怯える日々は終らない(3ページ目)

独占欲の強い恋人と別れたくなった由里。だが、別れる意思のない晃は強引な行動に出る。ストーカーに変貌した彼氏に怯える女性が考えた失敗の原因とは?

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

破壊的行動

このままでは済まない?
このままでは済まない?
午後から勤めに出て、退社後に自宅に帰るのが不安だった。自分から誘って同僚と飲みにでかけた。晃からはメールも電話もなかった。音沙汰がないことがかえってなんだか違うような気がしていた。だがやはり、自分の家に帰ることが怖いなんて間違っていると感じた。(別れてよかった)と、思いながら、同時に(このままで済むだろうか?)という疑念が心の中に暗雲のように湧いていた。

同期の同僚の光田茜に無理やり家に泊まってくれるように申し出た。茜はこの数ヶ月の由里の様子がおかしかったことに気づいていて、皆と居酒屋を出た後、2人で並んで歩いているときに、これまで心配していたと由里に告げた。 それほど親しくはなかったのに、茜が自分のことを気にしてくれていたのだと知って、由里は泣けてきそうだった。自宅への帰り道すがら、ポツリポツリと晃のことを話した。自宅の最寄り駅から徒歩で5~6分の距離だが、一駅手前で降りてタクシーに乗ることにした。

マンションの前でタクシーを降りる前に周囲を見回した。晃がいたらいやだと思ったのだ。誰の姿も見えなかったので、急いで建物の中に入り、エレベーターに乗った。内部には監視カメラが付いているので気分的に安心だった。3階でドアが開く瞬間は少し緊張した。だが、誰もいなかった。ボタンを押してエレベーターを1階に戻して、通路を曲がって一番奥の自宅に向かった。そして、由里と茜は同時に歩みを止めていた。

自宅の玄関ドアは何かで殴りつけたように何箇所もへこみ、傷ついていた。さらに何か塗料のようなもので黒く汚されていた。ドアノブも何かに打ち付けられたように傷が付いていた。晃に違いなかった。由里の不在中に家に来たのだ。だが、錠前が替えられていて、合鍵で開けることができなかったため、怒りで暴挙に出たのだろうと考えられた。

顔面蒼白になった由里を茜がささえた。茜も顔色を失っていた。思わず2人で通路を振り返ったが、誰の姿も見えなかった。とにかく家に入ろうと由里が鍵を取り出したが、震えてうまく開けられなかったので茜が代わりに鍵を開けて中に入るとすぐに鍵をかけてドアチェーンもかけた。お茶を入れ、やっと落ち着くと、茜が由里をじっと見つめた。

「多分これは『器物損壊罪』とかだと思う。でも、これだけで済むとも思えないんだけど」
「う…ん」
「今日は私が泊まるからいいとして、明日から問題じゃない? 何とかしないと」
「どうしよう。どうしたらいいの」
由里が絶望したようにそう言ってガックリとうなだれた。

恐怖に怯える
恐怖に怯える
「ダメよ。しっかりしないと。できること、すべきことをしないと」
茜がそう言ったとき、由里の携帯電話が鳴った。恐る恐るといった様子で携帯電話を手にした由里の顔が恐怖にゆがんでいた。晃からのメールだった。
「許さないぞ。別れるのも俺は納得しない。よくも鍵を替えたな。ドアだけで済むと思うなよ」
短いながら強烈な内容に由里はまた涙ぐんでいた。茜も眉をひそめて考え込んだ。そこへ、さらにまたメールが来た。


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