独占欲は愛情?
出会いは居酒屋で |
付き合ううちにかなりワガママな面が出てきた。それもある種の男らしさだと解釈して我慢して、甘えられるとつい許してしまう由里だった。しかし、晃の危ない雰囲気が実際の言動に基づくものだということが次第に分かってきた。ちょっとしたことで怒ったときの表情がまるで青い炎がゆらめくようで、呼吸が荒くなり、手がつけられないほどの激高ぶりなのだ。それは本当にささいなことで、冗談で言ったことを、なぜそこまで? というくらいに受け止めて言い返してくる。あまりにも怒った顔が怖かったので、それからは言葉を選んで話をするようになった。
デートをしていて、ちょっと通りすがりの男性を見ただけでも責められる。腕をひねり上げられてあまりの痛さにしゃがみ込んでしまったこともある。由里の手首をつかんだときの力がハンパでなく痕が残るほど赤くなったときは、さすがに申し訳なさそうな顔をした。だが、「他の男を見て欲しくないんだ」と口惜しそうに言って、「ごめんね」とすがるように、由里の機嫌をとるように甘えてくる。そんなときは、晃が小さな子どものようで放っておけない気がして、つい許してしまう由里だった。
友だちも、次第に一緒に外出することすら断られるようになってきた。食事をしていても何度も電話がかかってきて電話口に出させられるのだから、誰だっていい気持ちはしないだろう。会社の飲み会でも、女性の同僚に電話口に出させて、周囲の男の声の主をとやかく聞き出そうとする。いちいち説明するのが面倒で、週末や月末の誘いにも断ることが多くなってきた。自分を愛するが故の言動だとは思ってはいても、うっとうしいまでのかまわれように息苦しさを感じてきたのだ。
晃はいつの間にか勤めていたバイト先を辞めていた。上司が不愉快で喧嘩をしたからだという。「オレはもっとデカイ仕事をしたいんだ」と言うのだが、何も具体的なことは言わなかったし、行動もしなかった。晃は毎日のように由里の家までやってくる。マンションの部屋の合鍵は2人で出かけたときに無理やり作らされていた。帰宅するとテレビを見ていたり、勝手にゲームをしていることがほとんどだった。少しでも由里の帰宅時間が遅いと、髪や洋服の匂いまでかいで、どこに行って何をしてきたかをしつこく訊く。
叫び、怒鳴る |
2人の間には“愛”があると、由里は自分に言い聞かせていたのだ。晃への未練もあった。だが、晃の異常な独占欲と気分の落差の激しさに由里は次第に疲れてきていた。自分の居場所がなくなったようで、由里は精神的に追い詰められ、生活が変わってしまい、どんどん世間が狭くなってきたように思えた。そして、よくよく考えたあげくに、晃に別れを告げることにした。いつものように帰宅すると当然のようにそこにいた晃に由里が「話がある」と言って、別れを切り出した瞬間、晃は思わぬ行動に出た。