嵐の予感
無意識にお茶を |
「ねえ。今年はホワイトデーは金曜日よね」
「うん? ああそうだね」
「会社は土日がお休みでしょ。それで来週だけど、特別なことがあるわよね」
「え? 特別なことって? 何かあったっけ?」
「19日の水曜日よ。辞令の内示日じゃなかったかしら。毎年、たしか3月20日がそうでしょ?」
「あ、そうだな。今年は20日が休みだから、前日の19日になる」
今の企画室長に任命されたのが昨年だったので、地方の支社に行かされる可能性もないではないが、今年は異動はないと踏んで春彦は意識していなかったのだ。業績の厳しい支社だけにあえて力のある人材に行かせるという場合もあり、一概に都落ちだとか左遷といったニュアンスはないのだが、社員からすればやはりそうしたマイナスイメージは否めない。現に昨年は、不倫事件を起こした男性社員が飛ばされていた。行った先で結局、最近になって会社を辞めたために今年は確実に誰かが行くことになっている。
「その辞令であなたが飛ばされることを望んでいるんじゃないのかしら? 14日が金曜日でしょ。星野さんと会っている写真を撮って、週明けにでもそれを会社の上層部に知らせたら、水曜日の辞令が直前に変わるってこともあり得るんじゃない?」
「そうかっ! だから、バレンタインデーだのホワイトデーだのが関係あったのか」
「でも、本当なら立川次長さんが不倫しているのだから、自分のほうが危ないのに。まあ、それは誰にも知られていないと思ってるんでしょうけど。それより、すべては立川さんが目論んだことなのか、それとも横井女史だけが考えてやったことなのか」
「相手が出向社員でも、社内不倫の現場だと写真でも出回ったら、たとえ後になってそれが嘘と分かっても、辞令が出てしまってからでは遅い。つまり、ギリギリのタイミングなんだな。うーん。そうか。でもだとしたら、絶対に会わなければいいんだよな。星野さんとは」
「そうだけど。でも、それだと星野さん頼みよね。星野さんが来ないかあなたが会わなければそれまでだわ。ということは、なんだかそれだけでは済まないような気がする」
「まあ、だからといってこちらが横井さんと立川の不倫現場の写真を撮るとかは非現実的だしな。それを理由に脅迫や恐喝をするわけじゃないんだから」
「それじゃ犯罪よね。でも、もしありもしない不倫をネタにあなたに不利なことをしようとしているなら許せないわ」
「とにかく星野さんとは会わないようにしよう。それさえガードすれば大丈夫だろう」
そう言う春彦の手に自分の手を重ねながら、麻季子は何かもっと大変なことが待ち受けているような、嵐の予感をぬぐえなかった。
続けて「ミセスの危機管理ナビ~男の陰謀・女の無謀」もお楽しみください!
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