もう1人の女
「どういうこと?」「たしかに星野さんの名前で送られてきているけれど、星野さんが送ったとは限らないでしょ?」
「誰かが彼女の名前をかたったと……。でも、そんなことをする理由は?」
「理由なんか分からないわ。でも、あなたの話だと、星野さんがこんなことをするのも不自然なのかもって気がしてきたし」
「しかし、ほかの誰かがとなると、もっと訳が分からなくなるぞ」
ネクタイは自分で選ぶ |
翌日、春彦は帰宅するなり、週末、北村隆二と高野詩織がやってくることを麻季子に告げた。
「それとね、言いにくいんだけど、星野さんからメールが来た」
「……」
「メールは後で見せるけど……」
「けど?」
「一度、2人だけで会いたいって」
麻季子はたった今夫の口から出た内容に呆れていた。妻子ある男性にネクタイを贈っただけでも非常識なのに、2人だけで会いたいなんて度を越している。だが、今あれこれ言っても始まらない。麻季子はそれ以上その話題については触れなかった。
日曜日に北村と詩織が連れ立ってやってきて、麻季子が手作り料理でもてなした。食後には、2人が持ってきた備長炭で焙煎したという豆を使ってコーヒーを出した。
炭火焙煎コーヒー |
「よかったです~。隆二さんと築地のコーヒーショップで飲んだらすごく美味しかったので買ってきたんです。プロの人も買いに来るお店なんですって」
麻季子と詩織がコーヒーについて言葉を交わしていると春彦が口を挟んだ。
「コーヒーは元々イスラム圏からヨーロッパには17世紀初めごろから広がったんだ。たしか17世紀半ばにロンドンで最初のカフェがオープンしたらしい。コーヒーハウスかな」
「へえ。最近、シアトル系のカフェが増えてるけど、カフェは数百年の歴史があるんですねぇ。そういえばこの間の飲み会の後、みんなで24時間営業のハンバーガーショップでコーヒー飲んだんですよ。あれもカフェですかね」
北村から例の飲み会の話が出たので、チラッと麻季子は春彦と視線を交わしていた。春彦が北村に尋ねた。
「そのときだけど、星野さんはいたのかな」
「え? 星野さんですか? えーと、なんかお先にって帰ったと思いますよ。何か?」
「うん。まあ、ハッキリ言おう。実は彼女からバレンタインデーに贈り物が届いたんだ。それと個人的なメールも来た」
「えっ! それは……。しかし、星野さんがですか。あり得ないと思うなあ。横井さんなら分かるけど」
横井さんというのは、麻季子も聞き覚えがあった。わりとベテランの女子社員だったと思う。また別の女性の名前が出てきて、春彦は驚いたように目を大きく開いた。麻季子はため息をつきたいのをこらえて、口を真一文字に結んでいた。
続けて「ミセスの危機管理ナビ~男の迷惑・女の思惑」もぜひご覧下さい。
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