マッキーの推理
考えたんだけどさ |
「考えたんだけどさ、星野さんはただ世話になった上司にバレンタインのついでに贈り物をしたってだけじゃないのかね。お中元やお歳暮みたいに」
「それなら、ネクタイを選ぶのはおかしいわ。妻帯者の家にお中元とかなら、ビールとか食品とか洗剤なんかじゃない?」
「バレンタインにそれはないだろ」
「だって、ネクタイを贈る意味は知ってるわけでしょ? なら、やっぱりあなたに男女としての感情がありますって意思表示でしかないと思わない?」
「だけど、ホントにまったくそういう感じはなかったんだよ。それより、どうして自宅の住所を知ったかって点だ。なぜ自宅に送ってきたか、マッキーの推理力で考えてみてよ。会社で情報を探り出すのはかなり難しいと思う。パスワードが必要だから」
「じゃあ、あなたの後をつけた。尾行されたんじゃない? いつもちゃんと後ろを見てる?」
「うん。高野君の件があったろ。麻季子に言われてあれからオレも気をつけて後ろを見るようにしてるけど。あー、でもこの間の飲み会の時はどうかな。酔っていたからな」
「なら、あの日に尾行されたとか。住居表示を見れば住所は分かるもの」
「でも、住所は分かっても電話番号は分からないだろう」
「待って、送り状を見てみる」
北村隆二の恋人の高野詩織が脅迫メールを受け取ったとき、おそらく2人は尾行されていたのだろうということがあった。尾行されないためには、後ろを振り返って見ることだと麻季子が注意していたのを春彦も覚えてはいたのだ。サイドボードの上から包みを持ってくると、麻季子が確かめた。
電話番号は合ってる |
「そこまでするかね。誰かに頼んだら、それだけで問題じゃないか。それにそれほど親しくしている人が社内にいたとは思えないんだよなぁ」
「北村さんも打ち上げの時、一緒にいた?」
「ああ、あいつもいたよ、もちろん。たしか、若い連中は三次会に行くとか言ってた。星野さんは、ええとカラオケの店をみんなと出た後はどうだったかな。オレは先に帰ると言ってそのまま駅に向かったから」
「じゃ、北村さんに聞いてみたら?」
「うん。そうだな。あいつは酒飲みだから多分最後までいたはずだし。でも、突然、聞くのもおかしいだろう」
「また、彼女と一緒に遊びに来てもらったらどうかしら」
「そうだね。まあ、深く考えることもないと思うけど」
「何を言ってるの。ちゃんと考えるべきことじゃない?」
「まあまあ。めずらしいな、麻季子がムキになるのも」
「だって当たり前じゃない。常識外だわよ。まったく……。でも待って。これを送ってきたのは本当に星野さんなのかしら?」
突然、湯呑み茶碗をテーブルに音を立てて置いたので、春彦が驚いて麻季子の顔を見た。