携帯電話の危険性
「というと?」「見ていなくても、そう言える場合があるでしょ? たとえば、二人の会話を盗み聞きしたとか」
「どうなんだ? 誰かがそばにいるときに、ホテルに行った話をしたなんてことあるかい?」
「いやー、ないですね」
「そもそも、どうやって待ち合わせしたの?」
「えーと、ほとんど携帯電話のメールを使ってます。で、駅のそばで待ち合わせをして、コンビニで買い物をしたりしてから」
「その携帯電話のメールを盗み見られているってことは?」
「え? でも、僕はほとんど携帯電話を身につけてますから」
「会社のデスクの上に置いたりしていない?」
「いや、それはたまにはありますけど……」
北村の声が不安そうに小さくなった。
「そのときにメールを見られていたら? ロック機能は使ってる?」
「あー、いや使ってないですね。ヤバイですかね」
「他人に見られる危険性があるから、身から離さないか、暗証番号で他人に見られないようにしておかないと」
「そうですね。そういう機能があることは分かってましたけど、まさか僕の携帯電話に興味を持つヤツがいるとは思ってなくて。でも、そうか。そういうこともあり得ますね」
「結婚していて女房に見られるとヤバイようなメールがあるなら気を使うだろうけどな。あ、俺は見られて困るようなメールも電話もしてないよ」
「……。で、もしかしたら、北村さんの携帯のメールを盗み見た人物がいる可能性はあるってことよね。誰か思い当たらない?」
「いやあ、っていうかそんなこと考えたこともないんで」
「仕事のライバルで北村さんにいつも仕事で負けていて、悔し紛れにそういうことをしたとか。男の人って、嫉妬心が強いじゃない。彼女のメールアドレスも社内の人なら知っているだろうから。あり得るんじゃない?」
大好きなツナサラダ |
「北村君は、妬まれたりするタイプじゃないよ。女性に媚びるわけでもないし、先輩を立てて、同輩とはうまくやっていると思うよ」
「でも、社内に暗いタイプの人とかいない?」
「うーん。多少、地味なタイプはいるが、そういうことをしそうな暗さがあるようなヤツはいないと思うなあ。そりゃ、見た目だけじゃ判断できないだろうが、社内でも所属部署以外の連中とも忘年会とかで皆、顔見知りだけど。少なくとも、俺の見る限りではいないな」
「僕も、特に誰かに嫌われているとか、嫌がらせを受けたようなこともないですね。相性がそれほど合わないタイプでも、普通にしてますし。互いに淡々としているっていうか。それに嫉妬されるほどモテるわけでも、仕事で特別な業績があるということでもないですし。ちょっと情けないんですが」
「いや、北村君はスタンドプレー型の人間じゃないからな」
麻季子には、同郷の人間をかばいたい春彦の気持ちがよく分かった。