犯人の条件
「そっか。じゃあ、過去の彼女の可能性はないわね」「北村君はモテるからな。社内の他の女子ということも考えられるかもな」
確かに北村は真面目そうでいて女性にモテそうなタイプだった。俳優の誰かに似ていると麻季子は思ったが、誰かは思い出せなかった。
「いやあ、そんなことはないですけど。うーん、でも」
北村は親指を噛むようにして考えていたが、顔を上げて言った。
「正直言って、自分に好意を持っているような女性がいたら過去の経験から、僕も分かると思うんです。やたら目が合ったり、何か僕に気づかせるような行動をとりますから。って、自分で言うのもなんですが」
「ホントだよ。彼女も作れないようなヤツからしたら、お前、かなりイヤなヤツだぞ。ハハハ」
「すみません。でも今のところ、社内にはいないと思います。新入社員にも特別に僕に興味があるような女子は思い当たりません」
年上の女性とかは? |
「思いつかないですねえ。加瀬先輩に惚れてそうな人は知ってますけど」
「おいおい、何を言うんだ。アハハ」
「あなた、それはまた別の機会にちゃんと話を聞きましょ。じゃあ、詩織さんの周囲の女性はどうかしらね」
小ぶりの竹輪を斜め切りにしでゴマ油で炒め、だし醤油で味付けをしてゴマと七味唐辛子を振ったつまみが気に入ったようで、北村は続けて箸を伸ばした。食べながらちょっと考えているようだった。
「僕と彼女の付き合いを知っている人はほとんどいないはずです。彼女も口は堅いほうだし。彼女の女友達の話もそれほど聞かないし。ただでも本人に聞いてみないと分かりませんけど」
「じゃ、それは詩織さんに聞くとして、北村さんの周りの女である可能性は消せる、ということかしら」
「だと思うんですけど」
「じゃあ、北村さんの周辺の女である線は消して、男だという前提にして考えてみましょうよ。男だという上で、どんな条件が必要かというと、二人がホテルに行ったことを知っている人ということよね」
「ホテルに入ったか出たところを見た人物となると、その時間にそのあたりにいた人ということになる。だが、当の二人がそいつを見てないとなると、誰か分かるはずもないよなあ」
「待って。ホテルに入ったか出たところを見てなくちゃならないという前提はどうかしら」
北村と春彦が同時に麻季子を見た。