を先にご覧ください。【全4回】
《前回までのあらすじ》麻季子の夫・春彦の後輩、北村隆二が彼女・詩織とラブホテルに行ったところを誰かに見られた? 金曜日の晩、春彦が北村を連れて帰宅。3人でメール脅迫者を推理する。
男か女か
春彦がサイドボードの扉を開けて振り向いて言った。「何がいいかな。バーボン、スコッチにウォッカもあるぞ」
「あ、じゃあ僕はウォッカを」
「あら強いのね。ミネラルウォーターで? それとも炭酸で割る?」
「ハイボールでいただけますか」
「俺はスコッチの水割りだな」
「了解。ちょっと待ってね」
麻季子は冷蔵庫から氷、ミネラル、炭酸水を取り出してリビングに戻った。
「でも、北村さんってハイボールなんて渋い言い方するのね」
「加瀬先輩から伺ったんです。ウィスキーやウォッカなんかの蒸留酒を炭酸水やトニックウォーターで割ったものをハイボールというって」
「ウンチク好きなのよねえ」
「いやあ、先輩の豊富な知識にはいつも驚かされるというか、勉強になります。“酎ハイ”は焼酎を炭酸水で割ったから酎ハイだとか。焼酎ハイボールってことですよね。僕、“ハイ”って、気分がハイのハイだと思ってたりしたんで」
「アハハハ。それって面白~い」
スコッチの水割り |
「で、北村君の彼女に届いた脅迫メールの件だけど。麻季子はどう思う?」
「うーん、色々考えられるけど、まず北村さんはどう思ってるの?」
「僕ですか? まあ、きっと誰か彼女の知り合いだろうと思いますね。だって、彼女のアドレスに送られたメールですから」
「男だと思う? それとも女?」
「男でしょう。どう考えたって」
「その根拠は?」
「だって、裸の写真を送れなんて、女が要求しますか?」
「でも、女のほうにいやがらせをするのは女ってこともあり得るわよ」
「ええ? そうなんですか?」
北村は意外そうな顔を麻季子に向けた。春彦は、ハムの中に拍子木に切ったチーズを入れてくるりと丸めて爪楊枝で止めたおつまみを口に入れていた。
「たとえば三角関係のとき、女が二人なら、はじかれた女は相手の男に何かするんじゃなくてライバルの女に何かするわよね。男の場合は、捨てられた男はライバルの男に何かするんじゃなくて直接相手の女に何かする、って割と定説じゃない」
「そういえば、最近も事件があったな。男が新しい女と結婚してしまい、前の女が新しい女を殺したって事件が。それに男が、新しい男を作った女に暴力行為をするなんてのはよく聞くよな」
「でしょ? だから、男か女か決めるのは注意がいるわ。男女どちらかってことだけで、犯人像は半分にせばめられる。まずはその点を考えたらどうかしら。それにほら、メールを使ってるんだから、男か女か分からないじゃない」
「確かに以前付き合っていた女性はいましたが、もうずっと前に別れています。特にトラブルもなかったし、僕がフラレたようなものだったんで。その後何の連絡もないですし」
何か思い出すように、北村は自分に確かめるようにして言った。