脅迫メール
お邪魔します。 |
「こんばんは。今日はすみません。ご迷惑をおかけします」
「いらっしゃい。こんばんは」
「北村君がちょっと困っていることがあるというんでね。食事はしてきたから」
「そ? ま、とにかくどうぞ、上がってください」
「はい。お邪魔します」
春彦が後輩から相談を受けると言っていたのは北村のことだったのだと分かった。北村はリビングのソファに座ると、神妙な顔で膝の上で両手を組んだ。
「何をお飲みになる? ビール?」
「いや、真面目な話だからお茶でいいよ。な?」
「あ、どうぞおかまいなく」
麻季子はお客様用のウェッジウッドのティーカップを温めてて、時間をかけて丁寧にいれたダージリンを注いだ。春彦と北村の前にお茶を差し出してから下がろうとすると、春彦が言った。
「麻季子も座ってよ。第三者の意見も聞きたいから。北村君も上着とネクタイを取ったら」
「私も? そう、じゃあ」
ネクタイをはずして |
「すみません。でも、奥さんのお考えも聞きたかったものですから」
「まあ、ウチのやつは口は堅いから」
「いや、加瀬先輩の奥さんですからそのへんはまったく心配していません。あの、洞察力があるって聞いたことがありますし」
「あら、そんな」
洞察力があるなんて、春彦がどんな話をしているのかと思ったが、余計なことを言うより、今は話を聞かなくてはと北村のほうに気持ち体を乗り出した。春彦も黙っている。
「さっき先輩にはチラッとお話したんですが、ちょっとトラブルというか困ったことが起きまして…」
夫婦とも何も言わずに北村をうながした。
「実は、僕、社内に彼女がいるんですけど、その彼女に脅迫メールが来たんです」