不幸中の幸い
恐怖のエレベーター |
「誰もいないと思ったら、男が乗り込んできたの」
「ええ。どこにいたのかまったく分からなくて」
「先に出てきた男性ではなかった」
「多分。住人のような感じがしたし」
「じゃあ、帰ってくるときから後をつけられていたのかもしれないな。気づかなかった? まあ、気づいていたらあれだけど」
気づいていたら、こんなことにはならなかっただろうと言いたかったのかもしれないが、余計に傷つける言葉を避けたのだろう。結局、夜道でつけられていたか、マンション前の茂みかエントランスホールのどこかに隠れていた男ではないかということだった。乗り込まれたときに降りていればと、蓉子は悔やんだ。
「悪い言い方かもしれないけど、財布だけで済んでよかったかもしれないね。そのまま誰もやってこなかったら、エレベーターの中でもっとひどい被害を受けていたかもしれないから」
無言でうなずきながら、もし逃げられなかったら何をされていたか考えると蓉子は体が震えた。エレベーター内で暴行された事例もあるという。強姦被害は被害女性が届け出をしないケースもあるため、実際にどれくらいの被害が起きているのかは分からない。もし強姦でもされていたら…こうして警察官たちと話をしていただろうかとボンヤリと考えた。届け出る勇気があるかどうか、そこまで考えることはできなかった。
それ以来、蓉子は夜道では後ろを振り返りながら歩き、エレベーターに乗る前は時間をかけて入念に周囲を調べた。また、健康保険証や運転免許証、携帯電話、カード類など、個人情報に関するものが一切奪われたため、それぞれに盗難の届け出と再発行を依頼するなどで思いのほか時間と手間がかかった。そして、名前を知られたことによって今後起こるかもしれない事態を考えると、この恐怖感はいつまでも消えないのではないかと絶望的な気持ちで過ごしている。
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