防犯/防犯小説

女の事件白書~恐怖のエレベーター(下)(2ページ目)

27歳会社員・蓉子が深夜のエレベーターで襲撃された。悲鳴を聞きつけた住人がドアの隙間から様子を伺っていたので、蓉子は近づいていき助けを求めた。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

話を訊かれる

エレベーターに人が
エレベーターに人が
「あの、奥の部屋に住んでいる人ですよね? お顔は見たことがあるから」
「え? はい。908号室です。あの、すみません」
「謝ることなんてないわよ。このマンションはオートロックはあってもエレベーターに監視カメラなんてついてないから。不審者がいたって話は前にも聞いたことがあるし。恐いわねえ」

「はい、濡らしたタオル持ってきた」

女性の夫がタオルを手渡してくれた。冷たいタオルを頬に当てると、頭もスッとして救われた気がした。

「すみません」
「もう来るんじゃないかな。あ、あれそうじゃない? サイレンの音」
「ホントだ。あ、止まった。あれ、でもこのままここにいていいのかしら」
「一応、エレベーターで女性が襲われたらしいとは伝えた。ウチの部屋番号も伝えてあるから、上がってくるんじゃないか」

しばらくすると音がしてエレベーターが上昇してくるのを、3人で緊張しながら待った。

もし、先ほどの男だったらと思うと、蓉子は後ずさりしたくなった。だが、エレベーターからは数人の警察官が降りてきた。見ると一人が蓉子のバッグを手にしている。

「ええと、このバッグの持ち主は」
「あ、それ、私のです」
「エレベーターの中に残ってたんですが、口が開いているから中身をちょっと見てください。何かなくなっていないか」

手渡されたバッグの中をあらためると、数万円は入っていた財布がなくなっていた。給料日後で、光熱費の支払い用に多めに引き出してあったのだ。幸い、家の鍵は残っていた。

「財布がなくなってるみたいです」
「じゃあ、お話をお聞きしますから、ちょっといいですか」

簡単に事情を話して、電話をしてくれた夫婦も氏名やら通報をしたいきさつなどについて話を聞かれていた。蓉子は二人に「ありがとうございました」と会釈をしてタオルを返した。二人はうなずいていた。それから警察官らと一緒にエレベーターで降りることになった。3人の警察官と一緒だが、つい先ほどの出来事を思うと、いやな気分でずっと唇をかみしめていた。
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