防犯/防犯小説

女の事件白書~恐怖のエレベーター(上)

27歳会社員・蓉子が深夜帰宅したときに自宅マンションで体験したエレベーターでの恐ろしい出来事とは?

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

27歳会社員・蓉子が深夜帰宅したときに自宅マンションで体験したエレベーターでの被害。女性が遭遇しがちな危険について、リアリティのあるストーリーで疑似体験しつつ、防犯のポイントを知る。

深夜の帰宅

あ~疲れた。
あ~疲れた。
27歳の会社員・蓉子が勤務後に同僚との飲み会を終えて、郊外に近い最寄り駅を降りたのは深夜0時近かった。少し歩いていつも寄る自宅近所のコンビニで朝食用のパンとヨーグルトを買ってバッグに入れてから、自宅のあるマンションに帰り着いた。

少し古いが、オートロックシステムのあるマンションだ。契約を二度更新してもう5年目になる。男と別れることはあっても、住まいを替えるようなことはしなかった。すでに田舎の実家よりも親しみを感じて“わが家”と思っている。

通りからマンションの入り口までに植え込みがあり、緑も多い。ただ夜は少し暗いかもしれない。誰かが茂みに隠れていても分からないだろう。もう少し明かりがあってもいいのにと思う。だが、歩数も違わないくらいに入り口までのアプローチも馴染んでいる。

この夜もやっとわが家にたどり着いたという安堵感と酔いで楽しいくらいの気分だった。入り口で中から出てきた住人らしい男とすれ違った。互いに顔は合わせないままなんとなく会釈をしながら通り過ぎた。

オートロックの暗証番号を押して建物に入ると、蓉子は右側の奥まったところにある集合郵便受けに立ち寄り、数通の郵便物を取り出して差出人を確かめながら、エレベーターの前に立った。

男の靴が!
男の靴が!
エレベーターに乗り込むと、自宅階のボタンを押してから「閉」ボタンを押した。エレベーターが閉まる直前にガッとドアから抵抗音がしたので、見ると男の靴がドアの間に勢いよく挟み込まれていた。ドアがはずむようにしてもう一度開き、知らない男が乗り込んできた。

先ほどすれ違った男性ではなかった。男が勢いよく入ってきてボタンの前に立ったので、しかたなく蓉子はエレベーターの奥に後ずさった。外に出るタイミングを失ってしまったのだ。男は蓉子に背中を向けたまま無言で立っていた。エレベーターが上昇する。

監視カメラは付いていない。男の顔も見えないのでいやな感じがしたが、どうしようもない。(私の降りる階より先に下りてくれればいいけど)と思っていると、いきなり男が振り向いた。
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