年なりの分別
「私の好みじゃないけどね。それに、あれで引き下がるくらいだから。そこまで悪人じゃないから、なんて自分で言ってたわよ。でも、ギャンブルをやるみたいだし。女からお金を引き出そうなんてヒモ体質なのよ」「そういえば、写真がどうとかって?」
「あ、そうそう。ネタになるような写真は撮らなかったからって、だからもう追わないとか言ってた。ヤバイわよ~。もし変な写真でも撮られていたら、恐喝されていたかもよ? それに、食事に行こうなんて言ってたじゃない? 僕がご馳走するからなんて。あれ、絶対に払うつもりはなかったわよ。いつでも金欠だって言ってたもん。サラ金にも借金があるみたいだし」
「頭に来るなあ」 |
「たまに三面記事であるじゃない。結婚詐欺とか、メールだけの付き合いなのにお金を巻き上げられたとか。でも、イズミーも最後の自制心というか、やはり不安があったんでしょ」
「だからあなたに連絡した。なんかねえ、迷ったときにはマッキーに聞くといい答えが出てきそうで」
「結婚して姓が加瀬になったでしょ。だから“おまかせ”なんて言われるのよ」
「あはは。おまかせマッキーか。うんうん、そんな感じ。なんて言うの、道をはずれそうになったら修正してくれるっていうか。ナビゲーター? みたいな」
「そんな立派なもんじゃないとは思うけど。多分、第三者としてのほうが物事はよく見えるのかも。ごめんね、言いたい放題言っちゃって」
「ううん、いいのよ。確かに自分のことは分かっているつもりでも見えてないのかも。でも、おもしろかったよね。あんな芝居で通用しちゃうんだ。なんかテレビドラマみたいだったよね」
「まあ、大事に至らなくて何よりだわ。もうっ! 気をつけてよね。いい年なんだから。若く見えても、若いつもりでも、年齢はウソはつけないわよ」
「あーん、若いと思っていたんだけど。でも、ちょうどいい年頃のいい男はみな結婚してんのよ。これも問題なの」
「若いのもいいけど、相手が若いとしんどくない? 年齢なりに分別は必要だと思うよ。男遊びもほどほどにね。不倫はダメよ」
「それだけは、私も自重してる。まあ、それもあって、年下が多くなっちゃうんだけど。今回の件では大いに反省しました。迷惑をかけてごめんなさい」
ワインをそれぞれ追加オーダーして、それからまた会話を楽しんだ。麻季子が帰宅すると、ほどなく夫の春彦も帰ってきた。息子の翔太も、客間で母親もすでに休んでいた。
「なに、飲んできたの? 浅丘さんってバリバリのキャリアウーマンだろ。話が合うのかね」
「なに言ってるの。長~い友だちですからね。そうだ、ちょっと男の意見を聞きたいんだけど」
「いいよ。じゃあ、少し飲みなおすか。つまみはいいよ。食べ過ぎてきたから」
リビングで冷酒を飲むことにした。夫が鹿児島出身の部下の結婚の内祝いでもらった薩摩切子のグラスを使った。かなり高級なものらしいが、仕事でいつも世話になっているからとのことだった。江戸切子とはまた違う色合いが素晴らしく、カットが手に心地いい。
「ねえ、出会い系サイトを使う男の人って周りにいる?」