無意識の挫折?
和食をコースで |
「ちょっと~。なんでお金だの免許証だのを、見られるようなところに置くかなあ」
「だって、かなりお酒に酔っていたから。その場のね、ノリってのがあって」
「信じられない。男の人って、出会い系とかテレクラとかで知り合った女とホテルに行くときって、身元の分かるものは持って行かないって聞いたことがあるわよ。まあ、かなり遊び慣れている人だろうけど」
「そうねえ。完全に最初から遊ぶつもりならそうかもね」
「あなただって遊びでしょう? 危機管理がなってないじゃない」
「だから一度だけよ。って結局3回だけだし」
「たった3回会っただけで大金を貸そうなんて」
「それもねぇ、ノリだったのよね」
「あ~あ。そうだ。それよりも、彼さ、誰かに似ていると思わない? あなたの元ダンナ。似てるわよ。特に横顔なんかよく似てた」
「そう? そうかな。でも、私、元ダンナの顔、覚えてないわよ」
「品性はまったく違うけどね。話し方も違うけど、雰囲気とかタイプはよく似てた。年頃もちょうどあなたが結婚する前に付き合っていた元ダンナと同じくらいじゃない?」
泉がワインを飲んで、一息ついてから答えた。
器も楽しむ |
「それでね、気を悪くしたらごめんね。ちょっと私なりに考えたことを言っていいかな」
「どうぞどうぞ。拝聴させていただきます」
「イズミーって、きれいだし成績もよかったし、よくモテたし、いわゆる挫折を知らなかったでしょ」
「挫折? うーん、そうかなぁ」
「それで、離婚で初めて大きな挫折を経験したんだと思う。人生で最大の挫折だったんじゃない? 離婚直後のイズミーはかなり落ち込んでいたもの」
「まあ、ダンナとは泥沼だったしね。でも誰でも離婚したら落ち込むでしょ」
「おまけに離婚後に見かけたダンナは若い女の子を連れていたんでしょ」
「そうだったわね。マッキーよく覚えているわね。私のことなのに。もう昔のことよ。10年以上も前の話」
「それが余計にショックだったんだと思うのよ。それを乗り越えていなかったんじゃないかな。つまり、泉は傷ついていたのよ。で、傷ついたことを自分で認めたくなかった。そして、たくさんの男の人と付き合うことで、自分の女としての価値をたくさん認めてもらいたかったんだと思う」
「……」
次々と運ばれてくる料理を目と舌で楽しみつつ、麻季子は自分の分析を続けた。泉も時折ワインを口にしながら箸を動かしている。
「イズミーさ、一度、結婚を申し込まれたこともあったじゃない、何年か前」
「ああ、めずらしく長く付き合った人がそういえばいたわね」
「あのときだって、結婚すればよかったのに、仕事が面白いとか、結婚はめんどくさいとか言って。本当はまた失敗するかもって、恐かったんじゃないかな。結婚に踏み切れなかったのは、やはり自信がなかったんだと思う。自信喪失していた。つまり、離婚の後遺症が残っていたんだと思うのよ」