食い下がる男
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「だから、どうやって返すつもりなのかも全部ちゃん話して。そうでないと」
「頼むよ。今日明日中にどうしても用意しないと会社の話そのものがダメになっちゃうんだよ。ぼくの夢が実現できなくていいの?」
「じゃあ、あなたの免許証を見せて」
「え? なんで」
「なんでって、あなたの名前も知らないのにお金は貸せないわ。借用書はどうするの?」
「いるなら書くよ。でも、ぼくとあなたの仲じゃない」
「だから、免許証を見せて」
「今日は持ってないよ」
「じゃあ、フルネームは? 住所は? 出身校は?」
「そんなことを言わなくちゃいけないわけ? ぼくが何か悪いことでもしたの」
「ねえ、名前も住所も本当のことは知らないで、それでお金を貸すってのはどうなのかな」
「だから、二人で会っていたときがすべてだろ? ぼく達うまく行ってたじゃないか。なんで今になっていろいろ言うの。初めて会ったときから寝た仲じゃない。それでぼくの夢の実現に協力してくれるって話だったじゃないか」
「事業の出資金として出して欲しいなら、書類をちゃんとするべきでしょう?」
「男と女の仲でさ、そんな堅苦しいことを言わないでよ。困ってる相手を助けるのは当たり前じゃないの?」
「じゃ、どうやっていつ返すつもりなの?」
「うーん、半年か、一年以内には返すからさ。いや、当たればすぐにでも返せると思うよ」
「100万円を半年でとなると、利息なしでも1ヶ月で16~7万円の返済よ。1年ならその半分。ワンルームの家賃くらいね。本当に返せるの?」
「だから、友だちと一緒に住んで家賃を節約してるんだからさ。ねえ、でもアユミさん、これまでと全然違うじゃん。別人みたいだよ。何があったの?」
「何もないわよ。ただお金のことについては慎重にしたいの」
「へえ。なんでかなあ。ぼく達の出会いなんかはやけに気楽だったじゃない」
「それは……」
「ねえ、だからぼく達は相性がいいんだよ。アユミさんがすごく年上でも全然気にしてないし、事業がうまく行けばすぐに金も返せるよ。キャリアウーマンなんだから、100万円くらいどうってことないでしょ? ねえ、とにかくさ、何か食べに行こうよ。今日はぼくがご馳走するよ。そこでもう少し詳しく話すからさ。とにかく明日までに必要なんだ。とりあえず50万でもいいんだけど」
麻季子は雑誌に見入りながら隣の話を聞いて、5歳年上となっているはずだが「すごく年上」と言うだろうかと、ちょっと引っかかった。また、泉の質問に対してリョウ君が何一つちゃんと答えていないことに気づいていた。それに100万がダメなら50万とは、いかにも切羽詰っている。何にしてもこのまま二人がどこかに行ってしまうのはまずい。丸め込まれてしまう危険性がある。麻季子は、バッグに手を入れて中の携帯電話を取り出さずにリダイヤルボタンを押した。