姑との関係
「それは美枝さんだって同じじゃないねえ」「でも、理屈の通る人じゃないの。正直言って、針のむしろって言葉が本当に実感できた5年間だったわ。だけど、夫婦仲は悪くないのよ。桜子、って娘だけど、夫はすごくかわいがってくれてるし。ただ姑が、ね。でも私、さすがにノイローゼ気味になってしまって」
言葉を出さずにうなずきながら麻季子は美枝の話を聞いていた。
「で、たまたましばらく前に、私が整理するつもりでリビングに置いていた年賀状の束を姑が勝手に見て」
子どもの年賀状(イメージ画像) |
「ええ。家の中のことであの人をとがめられる人はいないの。で、絵里さんからの年賀状を見つけて」
「男の子ばかり3人の写真だったから」
「そう。で、年賀状を私に突きつけるようにして、『男の子を3人も産む人がいるのに、なんであなたはダメなのかしら』ってイヤミたっぷりに。『こういう人の爪の垢でももらえばいい』なんて」
美枝は口惜しそうに下唇を咬んだ。
「姑も虫の居所でも悪かったのかもしれないけれど、本当にヒドイことを言われ続けてね。私、涙も出なかったわ」
「私の知り合いも新婚のとき、子どもが出来るまで毎日のように2年間も近所に住むお姑さんがピンポーンってやってきてノイローゼになった人がいるわ。お姑さんのそうした言動とかプレッシャーこそが最大のストレスじゃないねえ。ストレスは妊娠しにくくなる理由でもあるのに」
「もう私も頭が煮えちゃって。絵里さんからの年賀状を見ていなければ、姑もあれほどひどいことは言わなかったかもしれないって考えたら…」
「それで、年賀状を…?」
切り裂かれた年賀状 |
「そこで止めておけばよかったのに」
「多分、私もおかしくなっていたのかもしれない。私をこんな目に遭わせた絵里さんが思い知るべきだって。その後、用事があって横浜に出たときに投函したの。受け取る側の気持ちなんて考えられなかった。でも郵便ポストに入れてしまってから後悔したわ。大変なことをしてしまったって。本当はね、電話で謝るつもりだったの。でも‥あの、ねえ、加瀬さんのところはお子さんに電話を取らせる?」
「いえ、うちはまだ取らせないの。留守電にしておいて、私とかは応答メッセージ越しに声をかけるようにしている」
「よかった。話が分かる人で。私も子どもには絶対にまだ電話を取らせないの。だって、子どもが電話に出てヒドイ目に遭ったら大変でしょう?」
「ええ。おとなでも振り込め詐欺に遭うくらいだから、子どもならどうだまされるか分からないですものね」
「私の知り合いの家で、小学生の女の子が電話を取ったら、知らない男にいっぱいいやらしいことや気持ちの悪い怖いことを言われてしまってね。電話って切ればいいのにと思っても切れないものじゃない? で、その子は精神的にものすごくショックを受けて。しばらく不安定な状態が続いたらしいの」
「そういう危険があるのよねぇ。私も聞いた話だけど、年配の女性が電話口でやはり知らない男から罵詈雑言を言われたらしく、心臓がおかしくなって救急車で運ばれたって。何か恨んでやるとか、殺すとか、さんざんなことを言われたんですって。切るに切れないで受話器を耳に当てたまま、呼吸がおかしくなって、家の人が気づいたらしいの。電話って便利だけど、凶器にもなりうるのよね。ただ、だからっていつまでも電話を取らせないってことじゃそれもよくないから。いずれちゃんとトレーニングをしてから徐々に慣れてもらおうかと思ってるけど」