防犯/防犯小説

ミセスの危機管理ナビ~揺れ動く心のありか

【連載第4回】絵里から預かった年賀状から選び出した1枚の差出人に電話をかけた麻季子は翌日、会う約束を取り付けた。明かされた衝撃的な告白に、あらためて人間関係の大切さを思う…。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

連載第1回「ミセスの危機管理ナビ~切り裂かれた年賀状」
連載第2回「ミセスの危機管理ナビ~聞き戻せない電話」
連載第3回「ミセスの危機管理ナビ~推理から見えたもの」を先にご覧ください。【全4回】

《前回までのあらすじ》絵里から年賀状の差出人の情報を聞いて、麻季子は背景を推理した。預かった年賀状から竹下美枝の1枚を選び出して、書かれていた電話番号に麻季子が直接、電話をかけた。

待ち合わせ

力になれるかもしれない
力になれるかもしれない
「もしもし? あの、お気を悪くなさらないでください。私、もしかして力になれるかもしれないと思ったのでお電話したんです。何と言ったらいいか、多分、理由があるんじゃないかと思って」
「理由って…」
麻季子は一瞬迷ったが、ハッキリ言ったほうがいいと思い口にした。
「年賀状と電話の件です」
「なんで…」

「誤解なさらないで。私、一方的に責めるつもりとかは全然ないんです。ただ、もしかして悩んでいたり、困っていることがあれば、話を伺うだけでも違うんじゃないかと思うものですから」
「……」
「私も小学生の子どもがいる母親ですし。もし、お話を伺っても黙っていたほうがいいということでしたら、絵里さんにも何も言わないとお約束します。それで、もしよかったら近いうちに、明日にでもお会いしませんか?」
「…私、娘が幼稚園に行っておりますから、明日午前中なら…」

フルーツツリーの前で
フルーツツリーの前で
翌日金曜日の午前10時半に、横浜みなとみらいの臨港パークで会うことを麻季子が提案して約束した。喫茶店などで話す気はなかった。風の渡る外で話したほうがいい。海を見ながらなら、美枝も心を開いてくれるのではないかと思ったのだった。待ち合わせ場所は、巨大な果物や野菜が1本の木になっているオブジェ「フルーツツリー」の前にした。

翌朝、麻季子は大きなバッグを抱えてパンツスタイルで臨港パークに向かった。日焼け止めを塗って帽子も被った。フルーツツリーのそばまで来ると、日傘を差したスカート姿の女性がいた。
「あの、竹下美枝さんですか?」
「はい」
「あ、私、加瀬麻季子です。初めまして。すみません。お呼びたてしてしまって」
「いえ、こちらこそ」
麻季子と直接視線を合わせないように目をふせながら、美枝が頭を下げた。

「フルーツツリーって、子どもが喜びますよね。果物の木だあ~って」
美枝の気持ちをほぐそうと麻季子は明るい調子で話を振った。
「ええ」
「すごく大きいから子どもなんかホント小さく見えて。写真に撮るとちょっと不思議な感じで」
「うちの子もここで写した写真があります」
美枝はつられて少しはにかむように小さく微笑んだ。ふたりでゆっくりと海に向かうように歩きながら、適当な木陰を見つけてその下に座ることにした。


  • →二人目不妊……p.2
  • →→姑との関係……p.3
  • →→→切ない過去……p.4
  • →→→→やさしさのありか/あなたの一票/関連防犯ガイド記事……p.5
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