人間関係?
『子ども』がキーワード |
「そう、それが怖いのよ」
「そう言えってことなんだから、やっぱり絵里さんに対して何かを言いたかったってことだと思えるのよ」
「えー、でもじゃあ、私に文句があるってこと?」
絵里が不機嫌そうな声でそう言った。
「やだー。だったら、私にそうハッキリ言えばいいのに。まったく誰かしら」
「それを年賀状から探り出すしかないと思うの」
「麻季子さん、やってくれる?」
「うーん。犯人探しってあまり気が乗らないけど。でも、あなたの人間関係にヒビが入るかもしれないわよ」
「いいわよ。こんなことをする人とこれ以上付き合いたくないもの。いい加減にしろって怒鳴って、縁を切ってやるわ。だって犯罪みたいなもんじゃない」
「まあまあ。やった人にはそれなりに理由があるだろうから」
「どんな理由があろうと許せないわ」
「そうなんだけど。でも、理由を知ることは必要だと思う。どっちにしても、明日でもまた絵里さんとこに行くわ。それで年賀状をもう一度見せてもらう」
翌日の昼にメールをすることにして、電話を切ってからも麻季子はしばらくじっと考えていた。絵里はかなり怒っているようだが、それも当たり前かもしれなかった。
誰だって切り裂いた年賀状を送ってこられたり、怖がらせるような不審な電話を寄越されたら、怒るに決まっている。しかし、絵里の性格を考えて、そして絵里の言動を思い返すと、なんだか単に相手が一方的にしていることでもないような気がする。性格が明るい分、ズバズバとものを言うし、あっけらかんとしているところがある絵里に、ハッキリ言いたくても言えないのではないだろうか? あれこれと考えていると、春彦が声をかけた。
人間関係でしょ |
「うーん。まあ、いろいろ複雑なのよ。お勤めも大変だろうけど、こっちもいろいろあるのよ」
「ま、おおかた人間関係の問題でしょ」
「あら、どして分かるの?」
「相談事なんて金の問題じゃなければ人間関係に決まってるよ」
「まあ、パパったら。鋭い!」
「会社でもいろいろあるさ。でも根っこは単純。好きか嫌いか。人をうらやむか、うらやまれるか」
「複雑に見えても、突き詰めれば単純だってことね」
「そう。最後は意外なほど単純な理由だと思うよ」
夫の言うことはとてもよく理解できた。もしかすると春彦も会社で何か問題を抱えているのかもしれない、とチラリと思ったが、それは言わないでおいた。春彦に言ったとおり考えごとをしてなかなか寝付けず、夜のお楽しみどころではなかった。