気になること
電話はトラブルの元 |
「ううん。麻季子さん、言ってくれて助かるわ。ありがとう。今日から子どもたちには電話には出させないようにする。それと名乗らないようにするわ」
「そうね。安全のためだしね」
「でも麻季子さんって何でも知ってるのねえ。何でもおまかせ~って感じ。あら、加瀬さんだから、“おま加瀬”ってことかしら。フフ」
「やだ。前に住んでたところでもおま加瀬さんって言われたことがあるわよ」
「やっぱり? おまかせマッキーってとこじゃない? なんか頼りになるもん」
「マッキーって、十代のときとかは呼ばれてた。メールアドレスはマッキーにしてるしね。でもさすがにこのトシじゃ言えないわ~。フフフ」
絵里が立ち上がってサイドボードの引き出しから年賀状の束を持って来た。
「他人の個人情報だから、なんだか見るのも気が引けるけど」
「ごめんね。でもこういう事態だから、目をつぶって。で、どうしようか」
「それぞれ、おおまかに説明してくれる?」
「ええと、この人は独身。こっちは結婚してる。あ、ほらこれなんか、子どもの写真を使ってる。これも」
二人で相談 |
「そうねえ。よく、がんばったわねぇなんて言われちゃう。でも、確率は毎回半々なのにね。まあでも、娘3人いたら家がつぶれるって言うから、男でよかったわよ~。麻季子さんとこは、翔太クンで打ち止め? 翔太クンにも兄弟がいたほうがいいんじゃない? また、がんばればいいのに」
笑顔を向けて気軽に言葉を投げかける絵里から、麻季子は視線をはずした。絵里の言葉が気にかかったのだ。
「あら、健斗クン。お腹すいたんじゃない?」
絵里の末の息子、健斗が子ども部屋から出てきてこちらを見ていた。恥ずかしそうに首をすくめた様子がかわいらしい。
「あー、ケンケンごめんね。ママ、すぐご飯の支度するからね」
「じゃ、絵里さん、私も帰るわ。翔太が塾から帰る時間だし」
「あ、麻季子さん、ごめんなさい。なんだか途中になっちゃって。後で電話するわ」
「そうだ。後で、電話くれるときに雅斗クンも電話に出してもらえる?」
「いいけど…」
「理由は後で話すわ。じゃ」
互いに子どもがいるのでしかたがない。麻季子は短い家路を急ぎながら、絵里のことを考えていた。絵里は明るく裏表のない性格ではあるが、その分、思ったことをそのまま口にしてしまうようだ。素直でいいともいえるが、もしかしたら、絵里のその性格がときにトラブルを招くことがあるかもしれないと感じていた。翔太と二人で夕食を済ませ、後片付けをして風呂の用意をしていると夫の春彦が帰ってきた。