《前回までのあらすじ》麻季子の主婦仲間・絵里に呼ばれて家をたずねると、子どもたちの写真の載った切り裂かれた年賀状を見せられた。その二日後に、絵里から急いで来て欲しいと電話が来た。
子どもが受けた電話
子どもが電話を |
「この子が、雅斗が、ヘンな電話を受けたって言うの」
「ヘンな電話って」
「マー君、もう一回言って。どんな電話だったか。あ、とにかく上がって、上がって」
リビングルームに通されると、ソファに座るか座らないかのうちに、絵里がまた言った。
「それがねぇ、私がキッチンにいたもんだから、この子に電話を取ってもらったのよ」
「絵里さんとこは、子どもに電話を取らせるの?」
「だって、もうこの子は2年生だもの。私が出らんないときは出るわよ」
「そう…」
言いたいことはあったが、それは後回しにすることにして、雅斗に話しかけた。
「雅斗クン、電話を取ったんだ。相手は何て言ってた?」
絵里をチラっと見上げて母親がうなずくのを見て、雅斗が話し出した。
「あのね、電話が鳴ったときにちょうどすぐそばにいたの。そいで、取って、はいもしもし、横山です、って言ったの。そしたらヘンな声で、子どもに気をつけるようにママに言いなさいって言った、みたいだった」
麻季子は絵里と顔を見合わせた。絵里は小さくうなずいて唇を引き締めていた。
「そいで、なんかねぇ、モゴモゴしてヘンな声だった。男の人か女の人かちょっと分かんない。女の人かもしんないけど」
「分かんないんだ」
「うん。そいで、ママを呼んできたら、もう切れてたの」
「ということなのよ。あ、マー君、もういいかも。ありがと。ママ、翔太くんのママとちょっと話があるからね」
雅斗が子ども部屋に入ったのを見届けてから、絵里が麻季子に向き直った。
「ねえ、どう思う? おかしいでしょう? 子どもに気をつけるように言えって、これって脅迫じゃない?」
「うーん、まあ、月夜の晩だけじゃないぞ、みたいな意味にも取れるわよねぇ。でも、だからって明白な脅しともいえないと思うな。気をつけて、なんて日常的に言う言葉だし」
まさか愛人? |
「まあ、そう考えるのが妥当でしょうね。続けてこんなことがあって、別々の人だとしたら、こんなことをする人が二人もいるってことでしょ? それこそ怖いし。でも、警察に言うほどのことじゃないと思うな」
「あー、もういったい誰なのかしら? 男なのか女なのか。あっ、まさか、うちの人の愛人…とか?」