切り裂かれた年賀状
「実はねぇ、これなんだけど」そう言うと、コーナーテーブルの上から1通の封筒を取り、麻季子に手渡した。ごく一般的な封筒で、封は切られている。裏には差出人も書かれておらず、宛名はプリントアウトされた活字だった。封筒の中には便箋の類はなく、下のほうに紙片が溜まっている。
「何これ。パズル?」
「違うのよ。ちょっと待ってね。健斗、お兄ちゃんのところに行って遊んでもらって」
末の子が口を尖らせて抗議したが、
「ママ、大切なお話だから、ね」
健斗は素直にうなずくと、くるりと体の向きを変えて元気よくソファから離れて行った。
切り裂かれた年賀状 |
絵里がそう言いながらテーブルの上に紙片を並べていくと、四角いハガキのような形になった。
「やだ、これ年賀状? のコピー?」
「そうなの。うちの今年の年賀状なの」
絵里がため息をついた。3人の男の子の写真が使われた年賀状だった。それをモノクロコピーしたもので、子供たちの顔が太い油性ペンでグジャグジャといたずら書きされたようになっている。
「ひどーい。これ、ひどいわねぇ」
「でしょう? 並べている途中から本当にいやな気持ちになったの」
「そりゃそうでしょう。っていうか、これ怖いよねぇ」
「これって何だと思う? 脅迫かなあ。でも、脅迫される理由なんてないし」
「単なる嫌がらせ…?」
「でも嫌がらせされる意味が分からない」
「受付局印は? どこから差し出されているのか分かる?」
「横浜中央郵便局になってるの」
「じゃあ、横浜の人だわね。でも横浜に出たついでに出せば、自宅が横浜とは限らないか」
「年賀状を送った県内の人は20人ほどなんだけど、誰もそんなことをするような人は思いつかないの」
「こんなことをするような人だったら年賀状なんか送らないよね」
「アハハ、そうよねぇ」
「でも、子どもの写真を載せた年賀状は送る側はいいけど、受け取っても嬉しくないという人もいるのよね。うちも翔太が小学校に上がった年まではやったけど、もう何年もやってないのよ」
「そうねぇ。それも分かるんだけど、なんていうかもうお約束? みたいになっていて」
麻季子も絵里の気持ちは理解できた。だが、受け取る側の気持ちはさまざまだし、写真の付いた年賀状は処分にも困る。それに、受け取った人がどう扱っているか分からないのだ。そう考えて麻季子は子どもの写真を年賀状に使うのはやめたのだった。こんなことをした人の気持ちは分からないが、子どもの写真の年賀状をありがた迷惑に思う人もいるだろうとは分かる。
「独身の人は?」