主婦仲間からのメール
「ううん。でも、多分、見た目じゃ分からないんだよ、きっと。見た目で悪い人だって分かったら、すぐ捕まっちゃうでしょ? だからね、いつもは普通の人みたいにしていて、変身するんだと思う。○○レンジャーになるみたいに。そいでもって悪が世界セイハして、地球があぶなくなって…」やはり子どもだなと思いながらも、核心を突いていると思った。
事件後の報道で、容疑者の周囲の人たちが「まさかあの人が」「そんなことをするような人には見えなかった」と言うのをよく見る。つまり、人は見た目では悪いことをするかどうかなんて分かるはずがないのだ。「いつかやると思っていた」と言われる人は、それまでに悪いことをさんざんやってきているようだ。そうは見えない人が悪事に走るのはなぜなのか。その理由に興味があるし、誰でも一歩間違えば、いわゆる「魔が差す」ことがあれば事件を起こすかもしれない。
身近な事件をよく考えると、どこに問題があったのか、何がいけなかったのかということが見えてくる気がした。そう考えると、人は意外と無防備だということが分かってきた。主婦仲間で世間話をするときには、つい熱が入ってしまう。そのせいか、ちょっとしたトラブルがあると自然と相談を受けるようになっていた。以前住んでいた町でもトラブルが起きたことがあった。主婦たちの間で間違った噂を立てられた女性がいて、そのとき、郵便物が盗まれていたことが事件の発端であり、郵便受けに鍵をかけていなかったから盗まれたのだろうと、麻季子が指摘したことがあったのだ。
絵里の自宅に呼ばれる |
そのうちの一人で、徒歩で3分ほどの距離に住んでいる37歳の横山絵里から、ある午後、携帯電話にメールが来た。
「麻季子さん、こんにちは。横山です。ちょっと相談に乗ってもらえるかな。できればうちに来てくれると助かるんだけど。30分ほどお時間ありませんか?」
翔太は塾に行っており、夕食の支度も問題はない。
「それでは、15分後にお邪魔します」
と返信した。
絵里は男の子ばかり3人の子持ちで、翔太の着なくなった衣類を譲ったりして仲のいい家族だった。家をたずねると、幼稚園に入ったばかりの末の子がまとわりつきながら絵里と一緒に迎えてくれた。
「ああ、麻季子さん。ごめんなさい。忙しいでしょうに。さ、上がってください、どうぞ」
と、リビングルームに通してくれた。
「散らかっているでしょう。恥ずかしいわ」
「男の子ばかりだからしかたないわよ」
「まあね。女の子が欲しくてがんばったんだけど。今となっては男ばかりでよかったと思ってる」
「あらどうして?」
「女の子ってかわいくていいんだけど、その辺の子とかテレビとかで見ても、コビを売っている小さい子とか見るとね。男の子のほうがあっさりしてるからいいわ」
「あ、絵里さん、どうぞおかまいなく」
話しながら手際よく紅茶を用意して持ってくると、絵里もソファに座った。