乾杯、そして…
「あ、もちろん。どうぞ。そちらのドアだから」(気が早いというか…。かなり割り切っているな)
ミサキはにっこりと笑って、さっさと浴室に入っていった。K介はソファに座りながら、シャワーの水音を聞いていた。まだ彼女が来てからたいして時間も経っていない。しかし、シャワーを浴びているということはこれから起きることをもちろん、ミサキも了解しているということだ。久々に若い女性とホテルの一室にいることは、夢のようだが紛れもない現実だ。(これからただの男になるんだ)と、余計なことを考えずに、意識を集中した。
ミサキが浴室から出てきた。バスローブに着替えて、髪をアップにまとめている。化粧は落としていないが、上気した顔が色っぽい。
「私も何か飲もうかな」
「あ、どうぞどうぞ。何を飲む?」(バスローブ姿の若い女性と何か飲むなんて。くぅ~)
「私、ブランディが好きなんだけど」
「じゃ、僕も飲もう」(なかなかぜいたくというか、趣味は悪くないな)
冷蔵庫から、ブランディのミニボトルを出して、グラスに注いだ。軽くグラスを合わせて乾杯をした。
「何に乾杯?」
「二人の夜に、ってことで」(ま、当然でしょ)
「フフフ」
グラスを合わせて思わせぶりな微笑みでK介を上目遣いに見て、ミサキはグラスに口をつけた。K介はグラスに入れたブランディを一気に飲み干した。のどから肺の中までアルコールが染みわたった。K介は、どうリードしようかと考えていた。だが、ミサキのほうから、ソファから立ち上がりベッドに近づいて行った。
チラリとK介を振り返って、シーツを矧いで身を横たえた。K介は、ワイシャツのボタンをはずして、スラックスのベルトに手をかけた。ブリーフ一枚になってベッドに入ると、ミサキが抱きついてきた。思いの外しなやかなミサキの若い体に、ある種の感動を覚えながら彼女を抱きしめた。
枕の下に隠しておいた小さなセロファンのパッケージをミサキが見つけだし、微笑んでK介に差し出した。それからのK介は、ミサキの反応に圧倒されていた。演技なのか本気なのか疑問に思う間もなく、からみつく手足にとまどいながら、彼女の声の大きさに目を見張った。もうK介は何も考えられなかった。自分の意思とはまったく別の所で、K介はアッという間に、自分を解放してしまっていた…。
→女の外出