防犯/防犯小説

【連載第5回】取り調べを受ける男。否認を続けるが… 出会い系サイト~破滅の連鎖(4ページ目)

[5/6]自宅に訪れたのは刑事たちであった。スーパーマーケットでの出来事について事情を聞きたいという。男はどこまで否認できるのか?

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

防犯カメラ


男は言葉を失っていた。刑事もそれ以上の言葉を発しなかった。重苦しい空気が流れていた。そこにドアがノックされて係が刑事に合図をした。刑事は立ち上がって、ドアの外に出ると、報告を受けた。男は上目遣いにその様子を窺っていた。ドアを閉めて、刑事があらためて席についた。

「先生。スーパーの出入り口の所にある防犯ビデオカメラに先生の姿が残っていました。今、報告が来たんですがね。それによると、あなたが店に入ったのは午後6時頃。買い物をしたのが7時過ぎ。走って出ていったのが7時20分過ぎ頃。この6時から7時まではどこにいたんですか?」
「私は…」


言葉が出ないまま、ごくりとのどを鳴らした。ビデオに記録が残っていては言い逃れはできない。

「実は…。あのとき、急に腹の具合がおかしくなったので、トイレに入っていました」
「ほぉ。腹が下ったんですかね」
「そうです。それで、トイレにずっと入っていました」
「腹が下ったのに、酒のつまみを買って、帰宅後にビールを飲んだんですか?」
「ですから、トイレに入って治ったんです」
「ふぅん。普通は腹が下ったらビールは飲まないんじゃないですかね」
「私は毎晩、ビールをやるのが習慣なんです」
「腹を下してもですか」
「そうです」


刑事は椅子に寄りかかって体をそらすと、左手で右肘を支えながら、右手で顎を触った。

「先生。最初は、7時過ぎに店に入ったと言ってましたよね。それから買い物をしてすぐに帰ったと。次に店内を1時間もウロウロしていたと言った。ところが今度は腹を下してトイレにいたという。非常に不自然ですね。それになにより、女性店員が叫んでいたにも関わらずあなたは逃げましたよね。本当に関係ないのなら、違うとその場で申し開くこともできたでしょう?」

「逃げたんじゃない。あの場を立ち去っただけです。関わりたくなかったからですよ」
「なるほど。“立ち去った”ね。さすが、先生だけあって言葉にはこだわりますな。ところで、先生、カメラはお持ちですよね。デジタルカメラ。デジカメっていうんですか」
「…なんでそんなことを聞くんですか」
「いや、参考までにですよ。私なんかは、機械は苦手でね。パソコンだのデジカメだのってのはどうもね。パソコンもおやりになるんでしょ?」
「ええ」


気力をなくしたように投げやりな返答をすると、突然、男は身を乗り出して言った。

「刑事さん。これは任意の事情聴取ですよね。私は逮捕されたわけじゃない。あくまでも自主的に警察に協力しているんです。私はその時間にあのスーパーにいた。それは事実です。それ以上何もありません。もう帰りたいんですが帰ってもいいでしょう?」


→逮捕!そして、再逮捕!

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